「自分を奪う自分」嗤う分身 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
自分を奪う自分
開幕早々、ヘン。
主人公の青年サイモンは列車に乗ってると、見知らぬ男から「そこは俺の席だ」といちゃもんを付けられる。
列車を降りようとすると、荷物の積み込みが始まり、なかなか降りられない。
やっと降りたと思ったら、鞄を扉に挟まれる。
出社したら、もう7年も勤務してるのに、警備員に止められる。
ヘンと言うか、ついてないとしか言い様がない。
隣のアパートに住む美人同僚ハナを望遠鏡で覗き見する事が唯一の楽しみのサイモン。その日も覗き見してたら、アパートから男が、こちらに手を振って飛び降り自殺するのを目撃する。
ここからまるで出口の無い迷宮に入り込んでしまったかのような…。
そして、職場に新人がやって来る。自分と瓜二つの青年、ジェームズ。
自分の前に自分とそっくりの人物が現れ…というのは、映画でよくある題材。
いつぞや見たドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『複製された男』は難解であったが、こちらはとにかく奇妙でシュール。
終始、ヘンな夢を見てるよう。
話を理解しようとすればするほど、訳が分からなくなってくる。
この不思議な感覚、不条理さに身を委ねる作品であると感じた。
ドストエフスキーの名作を近未来に舞台を移して映画化。
とは言ってもその近未来の世界観は、レトロな雰囲気。
背景音楽として日本の昭和歌謡曲が多く流れるのがユニーク。
とあるシーンでは、あの名曲が主人公の心情とリンクしていた。
容姿のみならず服装まで同じ。
ここまで似てると薄気味悪くなってくる。
唯一違うのが、性格。
内気なサイモンに対して、魅力的なジェームズ。
職場の人気者になり、ハナといい雰囲気に。
自分の全てが奪われる…。
これが全くの赤の他人だったら諦めつくかもしれないが、自分とそっくりの人間が…と思うと、気が気じゃないほど恐ろしくもある。
でもとにかく、奇妙・ヘン・不思議・シュールな作品だった。