「今は喧嘩しててもいつかは敬い合う家族(南北)」レッド・ファミリー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
今は喧嘩しててもいつかは敬い合う家族(南北)
母、父、娘、祖父。
一見、普通の家族。
しかし彼らの正体は、北朝鮮から来たスパイ一味だった…!
家の外では、仲睦まじくアットホーム。
が、ひと度家の中に入ると、母役を班長とし、命令・階級に絶対服従。
「パパ!ママ!」と呼んでいたのが、途端に「同志!」。そのギャップ。
プロデュース/脚本は、キム・キドク。彼にしては珍しいブラック・コメディ。
でもそこは鬼才、ブラックな笑いで覆い被せたその中に、家族を通して南北の悲哀を浮き彫りにする。
彼らの隣に住むのが、父、母、息子、祖母の韓国人家族。至って平凡だが、両親は喧嘩が絶えない。
よくあるご近所トラブル。
喧嘩ばかりしてる醜態。
当初は見下していたが…。
お隣さんである以上、次第に付き合いが始まる。
喧嘩ばかりしてて決して理想的ではないのに、何故か情が沸いてくる。
あろう事か、“南”に憧れすら抱く。
彼ら擬似家族の北朝鮮スパイたちにも、祖国に残してきた家族が居る。
祖国を離れ、“南”で工作活動をしてるのも、命令で時に暗殺を行うのも、全て祖国の家族の為。
我々が忠実に任務を遂行していれば、家族の安全や生活は保証される。
でもそれって、人質に取られているようなもの。
実際とある失敗をしたら、家族の身に危険が及ぶと脅される。
家族の為とは言え、何故時に家族や自分の命すら危険にさらすのか…?
祖国や偉大なアノ方に忠誠を尽くす事が第一であり全てなのか…?
お隣さんのようにしょっちゅう喧嘩するけど、敬い合う事こそ、家族として人としての幸せではないのか…?
彼らの中で、何かが揺らぎ始める…。
彼らの言動は常に監視されていて、何もかも筒抜け。彼らが次第に“南”に情が移っている事も。
仲間の一人の家族が脱北を計り、彼らや祖国の家族の身がどんどん危うくなる。
個人的に印象に残ったシーンは、彼ら擬似家族とお隣家族とで会食。
南北の在り方についてちょっと言い合いになるが、それが今我々が南北について感じている疑問などの全てを言い表していた。
彼らに最後の任務が。
惑わした隣の家族の暗殺…。
何の罪も無い一般家族を何故殺さねばならない…?
それ以前に、そんな事はもう出来る筈がない。憧れの家族像であり、親しい友人たちなのだから…。
隣の家族の命か、自分たちの命か、彼らの決断は…?
家族として過ごす内に、家族に憧れ、奇妙な絆で結ばれ…。
ラストのあるシーンに、本当の家族のような姿を感じ、目頭熱くさせるものがあった。
今は喧嘩してても、いつかは敬い合って。
それは家族同士も、国と国同士であっても、決して不可能ではない。