「歴史を変えた「製作中止映画」」ホドロフスキーのDUNE といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
歴史を変えた「製作中止映画」
2021年10月、ドゥニ・ビルヌーブ監督による超大作SF映画『DUNE 砂の惑星』が公開され、そこそこのヒットを記録しています。そんなタイミングで、映画好きの友人から「観ておいた方がいいよ」とオススメされたのが本作でした。私は恥ずかしながらホドロフスキー監督について存じ上げなかったので、かつて彼が『DUNE』の映画化を試みていたということも当然知りませんでした。ざっくりとした内容について知っている状態での鑑賞です。
結論ですが、映画好きならば観ておくべき作品ですね。ホドロフスキー監督がどれほどの情熱を持ってDUNEの制作に着手していたのか、そして2年半もの歳月を費やし、数々の世界的スターの出演にもこぎつけ、撮影の一歩手前まで行ったにも関わらず頓挫してしまった「DUNEの映画化」がどのように後世に影響を与えていたか。映画好きならば、間違いなくホドロフスキー監督に魅了されてしまうと思います。この映画が実際に完成していたら、間違いなく映画の歴史は変わっていたでしょうね。
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『エル・トポ』『ホーリーマウンテン』などで知られるカルト的な人気を誇る映画監督「アレハンドロ・ホドロフスキー」。SF小説の超大作『DUNE 砂の惑星』の実写映画の監督することになった彼は、並々ならぬ情熱を注ぎこみ、映画の制作準備に取り掛かる。サルバドール・ダリ、ミック・ジャガー、オーソン・ウェルズなどの大スターたちをキャストとして迎え入れ、準備が着々と進んでいたにも関わらず、その映画は撮影することなく制作が中止されてしまう。後の映画に多大な影響を与えた「存在しない映画」の制作秘話を、ホドロフスキー監督本人をはじめとする関係者たちへのインタビューや当時の資料を基に解き明かしていくドキュメンタリー。
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映画評論家としても活躍されているライムスターのラッパーである宇多丸さんは本作を「ホドロフスキー監督の魅力を描いたアイドル映画」と評して絶賛していました。私もそう思います。私は本作を観るまでは『エル・トポ』『ホーリーマウンテン』などの映画はおろかホドロフスキー監督の名前すら知らない状態でしたが、本作を観ただけでホドロフスキー監督のことが好きになるくらいには彼の魅力が強く表れた映画になっていると思います。
とにかく全編通して、ホドロフスキー監督の作る『DUNE』がいかに素晴らしいものだったかを語る内容になっていて、「どのようにして制作を進めていったのか」「どのようにして一流のスタッフを招集したのか」といった、武勇伝にも近い苦労話が展開されていきます。「このような経緯でキャストを集めた」と自慢げに語るホドロフスキー監督の語りの後に、そのキャスト本人がその時の話をする。最初は武勇伝めいたホドロフスキー監督の話を聞いて「自尊心の強いオッサンの誇張を含んだ大げさな話」かと思っていたら、紛れもなく事実だったのが分かります。これが面白い。
本作の監督であるパビッチ監督も「ホドロフスキーは生来のストーリーテラーだ」と語るように、彼の語りは引き込まれるように面白く、多くの観客やスタッフを惹きつける魅力があるのが分かります。多くの一流キャストがホドロフスキー監督のもとに結集し、歴史を変える映画『DUNE』の制作に向けて動いていた理由が理解できますね。
本作の前半は、最高の映画を制作するために文字通り世界中を飛び回り、一流の「戦士たち」を招集し、映画のプロットも出来上がり、撮影も間近というところまで進みます。「制作中止になった映画のドキュメンタリー」と聞いていたのに中盤くらいまでトントン拍子に準備やキャスティングが決まるので、「なんでここまで順調なのに制作が中止されたんだろう」という疑問がどんどん大きくなってきます。
そして映画の終盤。ついに「とある理由」で映画の制作は中止に追い込まれます。この理由がなんとも皮肉ですね。この「理由」が無ければ間違いなくここまで映画の制作準備は進まなかっただろうに、それが原因で映画の制作が中止に追い込まれてしまうなんて。
しかしホドロフスキー監督が情熱を費やして『DUNE』の制作に取り掛かり、世界中から情熱溢れる一流のキャストを招集していなければ、間違いなく映画の歴史は一歩後退していました。『エイリアン』は生まれなかったでしょうし、『スターウォーズ』も違うものになっていたでしょうし、後世の映画も変わっていたでしょう。この世に存在しない映画にも関わらず、間違いなく映画業界に革新をもたらしました。
そして本作『ホドロフスキーのDUNE』が制作されたことをきっかけに、『DUNE』の制作中止以降疎遠になっていた監督のホドロフスキーと製作のセイドゥーが再会し、ホドロフスキー監督の23年ぶりの新作映画『リアリティのダンス』が制作された。本作もまた、間違いなく映画の歴史を変えた作品であったと私は思います。
映画好きなら観て損はしない作品です。オススメです!!!