アデル、ブルーは熱い色 : インタビュー
アブデラティフ・ケシシュ監督「シーンの長さは内なるリズム」
スティーブン・スピルバーグが審査委員長を務めた第66回カンヌ映画祭で、最高賞パルムドールを受賞したフランス映画「アデル、ブルーは熱い色」。メガホンをとったのは、ベネチア国際映画祭で受賞経験もあるチュニジア出身の名匠アブデラティフ・ケシシュ監督。今作ではコミックを原作に、女子高生ヒロインの成長と、女性同士の情熱的な恋愛を生き生きと描写し、主演女優ふたりにもパルムドールが授与されるという史上初の快挙を成し遂げた。このほど初来日を果たしたケシシュ監督に話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)
男の子と恋をするということに疑問を抱いたことがなかった女子高生アデル(アデル・エグザルコプロス)。しかし青い髪のエマ(レア・セドゥー)と出会った日から、アデルの人生は一変する。互いに欲望を感じ、エマと恋人同士になったアデルは、恋愛を通して様々な感情を経験し、大人になっていく。
長回しと即興を思わせるような自然なセリフで、観客自身が登場人物たちと同じ場を共有していると錯覚するような臨場感あふれる演出が特徴だ。「シーンの長さは、内なるリズムで、私は呼吸をするようにリズムを表現したいのです。私の最初の作品から意図的にしていたことで、それは、どちらかというと映画の規則的なことから少し離れたいという考えからです。時間をかけてシーンを撮ることによって、その人間の本来の姿、真実が現れてくるというのが私の考えなのです」
文学作品に感銘を受け、よく食べ、笑い、泣きわめき、そして眠る……そんな人間的な営みからも、若いヒロインの“生”の輝きがスクリーンから満ちあふれる。このようなシーンをあえて映し出すことを好むそうだ。「食事をしている姿を撮るというのは、キャラクターに人間らしさを付加することになり、かつ、私は人がものを食べているのがとても好きなのです。そこに生命、やさしさ、官能性を見出して美しいと思いながら撮影するのです。食べたり、踊ったり、泣いたり、笑うことは自分が受けてきた教育や慣習から開放する瞬間だと思うのです。より自分自身に近づいて、本来の自分を見つける瞬間なのです」
10分を超える女性同士の激しいラブシーンも賛否両論の話題を集めた。「男性とは物足りず、肉体の愛情の交流があっという間に終わってしまうことを示しています。女性同士ではより深みのある交流があったということの表れなのです」とシーンの長さの理由を説明し、「世の中の人があのシーンにこれだけ興味をもってくれることに、私は興味を持っています」と世間の反応をも楽しんで受け止めている。
エマを演じた仏映画界の若手注目株レア・セドゥーとともに、アデルに扮した新星アデル・エグザルコプロスの熱演はこれまで各国の映画祭で高い評価を受けている。「彼女を選んだことは、私にとって迷いのない選択でした。僕自身に本当にぴったりの女優だったのです。彼女は本能、直感で演技をする女優です。役者の中には、理詰めで考えたりいろんなことを考察して演技に臨む人もいますが、彼女は反対です。僕自身もそういうやり方で映画を撮っているので、まさに相性はぴったりだったのです」と振り返る。
2013年10月の東京国際映画祭で先行上映され、今回が初来日となった。10代の頃から数多くの日本映画を見てきており「私は日本映画にゆりかごのように育てられたようなものです」と語る。小津安二郎監督の大ファンだというが、ケシシュ監督自身もまさに小津作品のリズムのようにゆったりと穏やかな口調で話すのが記者の印象に残った。「この東京のビルのエレベータを降りて廊下を歩いているだけで、小津の映画のワンシーンのようだと思うほどでした。なぜだか、ずっと前からこの国に住んでいたような懐かしさを感じました」と来日の感激をにじませ、取材後は念願だった小津監督の墓参りをするのだと明かしてくれた。