「ブラック・ウォッシュ」30日の婚活トラベル うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
ブラック・ウォッシュ
この映画、アメリカの文化のなかでも、黒人の生き方の価値観について考えるのには、とてもいい機会になるかもしれない。
それ以外には、見る価値があるとは思えない。
映画としては、コンパクトにまとまったロマ・コメで、特定の層のファンを喜ばせるには十分に魅力的な作りになっている。(自立した女性が)(なぜかシングルのまま)(期限までにパートナーを)(探し当てる)という組み合わせの、チャート式の恋愛コメディ映画、このカッコの中には好きな項目を当てはめることが出来て、その条件で探せば大体似た構造の映画を探し当てることが出来る。
若い女性が結婚相手としてあこがれる条件や、ロマンティックなプロポーズのシチュエーションが、これでもかと言うほどそろっている。さらには、LGBTに配慮したと思えるキャスティングは、ゲイや、ものすごく太った女性、そして黒人なのに共和党の下院議員を目指す男、それを応援する地域の有力者は典型的な南部の白人で、女性の権利など毛ほども考えたことのない古だぬき。(なんと、「スーパーマン」のオーティス!)などなど、分かりやすいタイプキャストが貫かれている。アメリカのコミュニティって、こんなに枝分かれしてお付き合いがあるの?と、にわかには信じられない多様性のオンパレードになっている。
主人公のモンタナを演じる女優さんは、アフリカ系アメリカ人と、ヨーロッパ系白人の混血らしく、肌の色以外はほとんど白人に見える。それどころか、彼女の表情やリアクションがすべて、キャメロン・ディアスを安っぽくしたような白人女性全般のステレオタイプにしか見えないのだ。こんな人実際にいたら、確実に仲間外れにされるんじゃなかろうか?もっと言うならば、劇中タイガー・ウッズのジョークを言うシーン意外に、彼女が黒人である必然性が全くない。
良くとれば、それほどにアメリカは進歩して、今や、肌の色など、何のハンディにもならない、青い目の人と同じに、黒い肌であるだけのキャストが当たり前に実現するということか。「デトロイト」なんて映画も今だに作られているのに。
彼ら黒人が、セレブリティとの結婚を夢見て、宝石をまとい、パーティーで優雅に踊り、ライスシャワーの中投げられるブーケをキャッチし、見栄のために30日以内におめがねに適う結婚相手を探し出すなんて行動を、本当に価値のある事だと思っているんだろうか?これ、普通に今までメグ・ライアンとかが演じてきたキャラクターを、ただ黒人に置き換えただけじゃん。
そんなどっちつかずの価値観を、もはや自国でも受け入れられることはなく、酷評の嵐。興行的にもコケたようだ。これこそ、ブラック・ウォッシュ。多様性のために設定の中に無理やり東洋系をねじ込んだり、興行成績重視のために、主役を白人女性に置き換えるハリウッドの、行き過ぎたキャスティングミス。
いろんな意味で、「ブラックパンサー」が成功した理由が理解できるのだ。あの映画は、あくまでも黒人由来のものを上手にまとめていた。それ以前の映画は、この作品も含み、白人由来のものを黒人に演じさせているだけで、笑い方も、キスの仕方も、全部白人のやり方なのだ。
残念ながら、そんな風にしか見えなかった。断っておくが、私は差別主義者ではないつもりだ。が、これを読んだ人が問題ありと判断するのなら削除でもなんでも甘んじて受けようと思う。
ちなみに、見る気のない人のために書いておくと、劇中タイガーウッズのことを黒人の成功者として例に出す白人のおっさんに、彼をどうしても自分と同じ黒人とは認めたくない議員候補が、いろいろと難癖をつけて否定するやり取りがどんどん気まずくなり、見かねたモンタナ(主人公)が「タイガーは乗っている車が成金趣味だから、黒人に間違われるのよ。」とジョークを言って、その場を取り繕う。というもので、黒人から見た世界は、かくも不思議な価値観を持つのかと、目からうろこの瞬間でした。
2018.9.6