「必要なのは癒しではなく、自立する力」さいはてにて やさしい香りと待ちながら ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
必要なのは癒しではなく、自立する力
この作品に“癒し”を期待すると突き返されてしまう。それは岬の珈琲豆を煎るときの真剣な表情を見れば明らか。店を手伝う小学生の仕事にも妥協を許さないその姿勢に、彼女の仕事に対するプライドが感じ取れる。これは見る者に癒しを与える映画ではなく、自立を促す映画なのだ。
能登半島の小さな町で生き別れの父親が残した船小屋を改造し、珈琲店を始める岬とその近所に住むシングルマザー・絵里子との交流を描いた本作。半島から望む美しい景色にこそ癒されるが、物語は珈琲のようにビターだ。
岬も絵里子も表面的には真逆に映るが、それぞれ悩みを秘めている。誰かに支えられたいという気持ちは誰もが持っている想いであるが、自分が自分自身と向き合えてこそ、周りの支えに気付くのではないだろうか。劇中には宮沢賢治の「よだかの星」が引用されるが、自立という解釈で本作と重ね合わせるのも面白い。
珈琲豆はアフリカからお客さんに届くまでの途中で店に少し立ち寄っただけ、だからきちんと仕事をしなくては、と言う岬の真摯な姿勢が印象に残る。
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