「なあ、いい天気だから外に出ようぜ」オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
なあ、いい天気だから外に出ようぜ
ヴァンパイアって、引きこもりだよね、ってここまで分かりやすく描いた映画はあんまりないかもしれない。
世の人間をゾンビと称し、自分たちの生活圏やライフスタイルを脅かす存在として嫌い、自分の好きな音楽に没頭し、遠く離れた彼女には会いたいといって、わざわざ彼女から出向いてもらったりして。
「ああ、俺、この世を憂う、ロマンチストだぜえ」
全編引きこもりのポリシーで貫かれて、とことんかっこいい男とは真逆で映画が進んでいく。
ひたすら、引きこもり夫婦の気持ち悪い会話に付き合わされる。
最初はアホくさ、思いながら、吐き気をもよおしながら見てたが、血液を調達するシーンや、にわかに時代感覚がおかしい音楽センスなど、ああ、これ、ワザとか、と気付くと、俄然笑けてくるようになる。
「ひきこもっちゃダメなんかぁ」
世の引きこもり、というかジャームッシュ自身にかもしれないが、強烈に皮肉たっぷりに、ひょっとしたらあるいは、自虐的なメッセージがここにはある。
シャレオツな宣伝、お疲れ様です。
「ONLY LOVERS LEFT ALIVE」というのは、ジャームッシュ自身が意図的かどうかわからないが、「LOVERS」とは世に言うカップルのことではなく、この映画で言う、血を吸う、DRINKER(S)に置き換えるとよくわかる。
印象的なシーンとして、血を飲むシーンは、エクスタシーに達した
恍惚な表情をすべてのヴァンパイアが見せる。
また、人間が血を流したり、怪我をしたところを見るとゾクゾクするのは、普通に性の象徴。引きこもろうが、本能的な欲求は変わらない。
ラスト、彼らが、引きこもりのねじまがったポリシーをブン投げ、夜道のカップルを襲うのは、
「あんなに嫌っていたイヴの妹エヴァのやり方が正しかった」
「ウジウジ籠っていると生きてられない」
ということなのだろう。
LOVERSとは愛ではなく、欲望を追うもの。
ヴァンパイアにとって、純粋な欲望、生き血を吸うものがだけが生き残る。
引きこもりは、外に出て、その存在において、純粋な欲望を追いかけなければいけないのだ。
さあ、いい天気だぜ?