「1,2を争う宮崎作品」風の谷のナウシカ Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
1,2を争う宮崎作品
総合:95点
ストーリー: 95
キャスト: 95
演出: 95
ビジュアル: 85
音楽: 100
個人的に宮崎作品の中でも1,2を争う優れた作品だと評価している。冒頭で映画全体に関する序章を見せ、久石譲を音楽の担当とし、主人公を思いっきり冒険させるというその後のジブリにおける宮崎映画の基本を確立した記念すべき作品でもある。
物語の設定は汚染され尽くした未来の地球である。しかし自分たちの過去の所業のため人類が滅びかけている中で、さらに愚かな行いを飽きることなく繰り返してしまう人の業を暴き出す。その大きな流れを止めようと奮闘するナウシカの勇気と行動力に魅了され、彼女のもたらした結末に感動する。環境破壊による社会・経済の破綻、人の制御を超えた技術の進展、権力争い、戦争、汚染された苦しい環境でそれでも精一杯生き抜く人々の生活。そのような主題が主人公の命懸けの冒険の中にうまく散りばめられ、活劇としての面白さと共に多数の問題を視聴者に投げかけ考えさせられる。
登場人物はみんな魅力的である。ナウシカは城でじいや父と話しているときは優しい少女なのに、腐海に一人で出かけるお転婆な一面もあれば危機には勇ましく戦い、また村の人々のためにはクシャナに譲ることもあり、ヒロインとして人間らしさと高い能力・精神力を見せる。それを城のじいたちといった味方がいい味を出してナウシカを助ける。また敵である有能だが屈折したクシャナや、隠れた野心家クロトワといった登場人物たちも個性的で存在感がある。ナウシカとクシャナは敵同士であるが、汚れた世界で苦しいときにも諦めず強くあり続けようという意味で似た者同士なのかもしれない。王蟲をはじめとする人間以外の登場物も秀逸だった。
久石譲の音楽がまた素晴らしい。映画の壮大さを劇的に盛り上げるかと思えば、ナウシカの心の悲しみを謳いあげることもあるし、滅びかけた人類の営みを美しく奏でることもある。彼にとっても大きな出世作となった。映画を見ないでサントラだけ聞いてもかなり楽しめる。この映画にこれ以上の音楽は誰にも作曲出来なかったと思う。
個人的には、風の谷に過去の伝説があり、ナウシカがその伝説の人になるというのがあまり好きではない。ナウシカは伝説の人になろうと思っていたわけではないし、ただ一生懸命自分が出来ることをやっていただけである。それを伝説どおりに動いたみたいに言われると、その伝説は一体いつどこから来たのかと疑問に思ってしまう。ナウシカはまず伝説があるから最初からそうなる運命だった、みたいになってちょっとわざとらしく感じるのだ。
しかし非常に優れた作品である。よくぞこの時代にこれだけのものを作った。これを見た後、その後の宮崎監督の評価がどうなるかが容易に想像出来たし、だから後に「千と千尋の神隠し」で彼がアカデミー賞を取ったときにも別段驚きはなかった。むしろこの作品でこそアカデミー賞をとるべきだったと思っている(実際はアカデミー長編アニメ部門は2001年からだが)。
この作品では宮崎監督はまだ有名ではなく興行収入も赤字で、宮崎監督の評価が確定するのもスタジオジブリが映画公開で黒字になるのもこれより後の作品からである。しかし特に最近の作品しか知らない若い人には反対意見もあるかもしれないが、この作品の前後数年が宮崎監督の頂点ではないかと思っている。その中でもこれは絶頂期の作品であろう。