「ラストでLife誌休刊記念号の表紙を飾る写真にグッときました」LIFE! 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ラストでLife誌休刊記念号の表紙を飾る写真にグッときました
前回は寝てしまったので、二度目の試写で、改めて書き直します。
はじめに、この作品は、本来スピルバーグが監督することになっていたらしいのです。世界を巡る規模のでかいロードムービーにしては、ベン監督の演出はコメディタッチで、せっかくの雄大な映像を活かさず、ドラマを小さくまとめてしまっているような感じがしました。
ただラストでLife誌休刊記念号の表紙を飾る写真がネタバレされたときは、グッときましたね。
人類が生きることの真実を、カメラで伝えることをLife誌は使命としてきました。それなのに経営危機だからといって、Life誌とは無縁だったリストラ請負人がやってきて、スタッフを大量解雇しようとするのです。それに対して、おまえにLife誌の訴えてきたことが、本当に解るのかと皮肉ったメッセージが強烈でした。そして、Life誌の掲げる理念に沿って真摯に編集に協力してきた、ある意外な人物が表紙を飾っていたのでした。
実際のグラフ雑誌Life誌は、1972年12月29日に通算1862号で休刊しました。1967年-1970年頃が最盛期で850万部を発行していたのです。本作では、ネットの普及で衰退したことになっていますが、本当はテレビの本格普及前までが黄金期で、その後経営は悪化していきました。それでも、アメリカの思想・政治・外交を世界に魅力的に伝える媒体であったのです。本作は在りし日のLife誌を忍び、時代の変遷を感じさせつつ、変わりようがない価値感として『生きることの真実』とは何か、その目で確かめてみようではないかと、熱く呼びかける作品でもあったのです。
但し本作はリメイクで、オリジナルのほうは見たことがないのですが、筋だけ比べてみても、オリジナルのほうが面白そうだと思われることでしょう。
オリジナルは、ジェームズ・サーバーの1939年発表作品『虹を掴む男』。1947年にリメイクされて、今回が二度目のリメイク作品となります。
元々のオリジナルでは、オランダの王位博物館を舞台に、ナチの手に入らぬよう疎開しておいた宝石の争奪戦を描くトレージャーハント活劇でした。それが本作では、LIFE休刊記念号の表紙を飾る写真のネガが見当たらなくなって、撮影したカメラマンを追うことになり、世界を旅をすることになるという設定に置き換えられていたのです。
さらに、オリジナルでは主人公は、宝石を奪おうとする悪漢団の巨頭とその一味の正体を暴いて当局に引き渡すという大活躍を主人公は成し遂げるのです。その結果勤務先の雑誌編集部の編集長に昇進までするというドリームも実現するのです。
それに比べて本作だと、活劇はなくなり、恋するクリステンとの関係が、ほんの少しいいかんじに前進する(どうなるかはネタバレしません)だけなんですね。
それでも主人公のウォルターには、感情移入しやすいいうメリットはあるかもしれません。何しろ、雑誌『LIFE』の発行元という華やかなマスコミ業界にあって、ネガ管理の裏方仕事に徹しているという、地味で風体があがらない男です。皆さんの身近にもいそうなだからこそ、親近感は感じられることでしょう。いるいる、こんな男!と共感されて身につつまされる存在なのです。「事件は現場に落ちている」というか、
でもそんなウォルターが、大事な写真のネガが見当たらなくなったとき、突如として行動を起こすことが本作のキモなのです。ネガがないというなら、悩んでばかりいないで、撮したカメラマンを探し出すほうが手っ取り早いじゃないかということで、ウォルターは雄大な自然にいだかれた世界の辺境地を旅して、冒険家の著名カメラマンを探すことに。
ウォルターの大胆な行動のバックボーンは、Life誌の掲げた、人生をその目で感じてみようという理念が息づいたいたからなのかもしれません。
でも不満なところは、その旅の結果ウォルターの人生観がガラリと変わったように見受けられないのです。映画『最高の人生の見つけ方』のように2時間でガラリと変わったところを見せつけてくれれれば感動してしまいます。ウォルターは、ウォルターのまま、Life社員らしさを発揮したというのでは、ちょっとね(^^ゞ
それに、どこへ行ってもウォルターの頭の中にあることは、愛しいクリステンのことばかりで、期待したほど自分探しをやってくれないのです。
ついでにいうとウォルターの空想癖の描写も、現実の出来事とのメリハリをつけてくれないので、混乱しました。空想シーンになると何でもアリになってしまいがち。映画はいとも簡単に現実から夢の世界へ切り替えることができます。でも観客の見になってみれば、どこか違いをつけてくれないと、その後の現実のストーリーに違和感を引きづってしまうのです。
本作のウリといえば、日常生活に埋もれがちな凡人サラリーマンが殻を破って、「夢の世界」に辿りつくことではないでしょうか。だからこそ、それは空想なのか現実なのか、はっきりしておいて欲しかったのです。
逆に評価できる点は、「夢の世界」の本物感にこだわったこと。グリーンランドやアイスランドなど吹きっ曝しのヘリコプターに飛び乗り、凍てつく北極の海では本当にベン自身が飛び込んでみたり、アイスランドでは火山へ向かってサイクリングし、その後火山の爆発に遭遇して、火山灰に追いかけられたり、最後には何とヒマラヤの5000メートルの雪原を歩いたり、日常では体験出来ないリスキーな場所まで、旅をする意外性を楽しませてくれることに尽きるでしょう。
その中でも、アイスランドの火山から、ウォルターがスケボーで駆け下りていくシーンは、迫力もあり、爽快感がありました。
そんなウォルターと一緒にワイルドな旅を楽しめるかどうかが、本作の評価の分かれ道だと思います。要所でクスクスと笑わせてくれる演出も、肩の力が抜けて、あまり深く考えずに鑑賞できることでしょう。ウォルターのナルシストぶりには、思わず爆笑してしまいました。
ひとりで監督から、脚本、主演までこなすベン監督の性格も、ウォルターに近い者があるのかもしれません。本日17日にベン監督は日本にやってきて、ウォルターの吹替えを担当するナイナイの岡村隆史と対談したそうです。何となく似ているふたりがどんな話をしたのかも興味深いですね。