劇場公開日 2014年1月31日

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ザ・イースト : 映画評論・批評

2014年1月28日更新

2014年1月31日より新宿シネマカリテほかにてロードショー

社会正義か経済か――現代の葛藤を浮き彫りにした社会派サスペンス

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インファナル・アフェア」や「フェイク」といった潜入捜査映画は、捜査機関は善、犯罪組織は悪という前提で話が成り立っている。しかし、潜入調査映画である「ザ・イースト」の場合は、潜入する側と潜入される側の善悪は釈然とせず、両方に倫理的な非がある。そこが個性的な作品だ。

潜入される側は、ザ・イースト。海を汚染する石油会社や副作用のある薬で儲ける製薬会社に攻撃を仕掛ける環境テロ集団だ。かたや潜入する側は、上記の石油会社のような問題企業を顧客に持つ民間の調査会社。彼らは犯罪を取り締まるためでなく、顧客の利益を守るためにザ・イーストにスパイを送り込む。

ドラマは、そのスパイの目線を通じて2つの組織の胡散臭さをあぶり出す。とくに面白いのはザ・イーストの描写だ。問題企業に鉄槌を下す正義の使者を気取る彼らだが、実態は社会的な制裁と個人的な復讐を混同している素人の集まり。その脆弱さと幼稚さを、主演と製作を兼ねた脚本家のブリット・マーリングは、メンバーたちがスピン・ザ・ボトル(アメリカ版王様ゲーム)に興じる場面などを通じてあらわにしていく。

いっぽうの調査会社も胡散臭さでは負けてない。スパイからテロの報告を受けても「その被害者は顧客じゃない」と我関せずの構え。そして、すかさず被害者に営業をかける。笑えるほど貪欲だ。

主人公のスパイは、こんな2つの組織を行ったり来たりするうち2種類の葛藤にさいなまれる。ひとつは、本来の人格が偽装の人格に浸食されていく潜入映画定番の葛藤。もうひとつは、「問題企業を守る仕事にもテロ行為にも大義が見出せないなか、人間として正しく生きるにはどうすればいいか?」という、正解のわからない答えを求める葛藤だ。

その後者の部分に知的妙味を感じさせるこの映画、最後には、諜報活動の民営化とそれに伴う情報のリークという、いま最もホットな社会ネタにも視点がおよぶ。鋭い時代感覚を持った社会派サスペンスだ。

矢崎由紀子

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