「セックス。快楽以上の喜び。」セッションズ さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
セックス。快楽以上の喜び。
大江健三郎は小難しい隠喩でセックスは滑稽で醜いと語るし、
射精って言葉が何回出て来るんだよ!と突っ込みたくなる村上春樹もいる。
男の性は厄介だ欲望が男を卑しくするんじゃないの?というアービングに、もしこれがセックスというものなら未だバージンだなと思う私がいる。
※観たのはかなり前なのですが、考えが纏まらなくて今に至ります。
マークは、笑顔が可愛くて、ユーモア、知性に溢れた魅力的な人。
恥ずかしさも、恐れもある筈なのに、未知の世界に足を踏み出す勇気のある人。
自分の欲求に正直な人。
そんなマークの魅力を、主演のジョン・ホークスは顔だけの演技で表現しています。
マークは自分の境遇を全く悲観していませんが、それまで幾つもの苦しみを乗り越え、どれだけのことを諦めてきたのだろうと思うと、そんなマークが愛おしくなる。
こ・こ・で・す!
この作品の肝は、観客がマークをどれだけ愛おしく思い、シェリルがこれからすることを、どれだけ好意的に見られるかにかかっている。
その点、ジョン・ホークスの演技は満点です!
ジェニファー・ローレンス主演の「ウインターズ・ボーン」では不気味な叔父さん役だったので、その振り幅にびっくりします。
セッションはどんなことをするかというと、つまりセックスです。
すみません。この部分をぼかしたままでは、大事なことが語れません。
それに性への欲求は、誰しも持っているものです。本作では「当然のこと」と、真っ直ぐに向き合っています。
なので私も、正面向いて語ることにします。不快に感じる方がいたら、申し訳ありません。
セッションは、挿入して射精することをゴールとし、回数は6回と決まっています。これ以上になると、双方に情が湧くからだとか。
でもマークは(6回までいかずとも)ベッドでシェリルに優しく触れられて、特別な感情が芽生えます。
しかしアマンダもそうなんですが、「好き」という気持ちだけでは一緒にいられないという、現実的で正直で悲しい思いがあります。だからアマンダは、マークから去って行きました。
シェリルといる時のマークはとても幸せそうですが、アマンダと同じく悲しい空気が微かに漂うのが切ないです。
目的が達成された時、マークが「思わず泣きそうになった」と言いますが、それを境にシェリルもある種の感情を抱きます。
「愛してる」
囁き合う二人。
二人の感情の動きが、快楽以上の喜びを物語っていて、かなり衝撃を受けました。肉体ではなく、心が満たされる素晴らしい瞬間。
この瞬間の喜びを、こんなに爽やかに見事に描いた作品を知りません。
また自分自身の経験と照らし合わせてみて、これがセックスというのなら、私は未だにバージンなんだと泣きそうになりました。
そして大江健三郎先生も、村上春樹先生も、ジョン・アービングですら、実はこの喜びを知らないのでは?と愕然としました(あ、思い込みです。すみません)。
しかしシェリルは既婚者です。シェリルがマークの家以外で会ったこと、マークの詩が自宅に届いたことを、夫が咎めるシーンがあります。規約違反だろ?と(シェリルは個人情報を明かしてはいけません)。
この夫婦の他人とは違うセックス観が滲み、夫がこの仕事を許している理由が分かる。
セッションは6回ではなく、4回で終わってしまいます。互いの気持ちが、更に深まる前に。
ここにも衝撃を受けました!
セックス4回で、心を通わせあう二人に。
今まで私がしてきたことって、何だったのかな?
もの凄く陳腐な感想だと分かった上で申し上げます。セックスって、もっと丁寧に大事にすべきことで、そして得られるものって、もっと、もっと、もっと沢山あるんだと改めて思いました。
得られてないなぁ、私。
マークからセックス・サロゲートの相談を受ける神父が、名脇役のウィリアム・H・メイシーです。
全ての俳優さんが、ぴったりと役にはまっていて本当に嬉しくなる。
「愛とは何だ?愛とは旅だ」
神父の言葉が、胸に残りました。
できれば私も、そろそろ目的地に到着したいものです。