「100万に一つの…」あなたを抱きしめる日まで 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
100万に一つの…
50年の時を経て生き別れた息子を捜すアイルランド人女性の姿を描き、アカデミー作品賞にもノミネートされた感動作。
良作だった!
ドラマチックな題材なのは当然、実話の映画化。事実は小説より劇的。
ベタな邦題から温かな作風を想像するが、ユーモアと批判精神のスパイスが効いている。
息子を捜す母フィロミナと、協力する記者マーティン。
片や、小さな事にも素直に感動し感謝する、子供のような性格。
片や、職業柄か、何事も斜めから見る皮肉屋。
性格も考え方も正反対の二人のやり取りが面白い。
息子の消息を追ってアメリカにやって来たフィロミナのカルチャーギャップも充分なユーモア要素。
その昔、修道院で出産したフィロミナ。
カトリックにとって、未婚の母は罪(らしい)。
愛する我が子は養子に出され、無理矢理引き離されてしまう。
これは、以前見たある映画でも取り上げていた、この当時のイギリスの社会問題の一つでもある、児童移民。
修道院が養子斡旋していたという、衝撃の事実。
修道院=清らかな善のイメージの裏側の闇を暴く。
物語の中盤で、息子の消息は意外な形を迎える。
そこで終わらず、息子の形跡を追う。
(↑ちょっとネタバレか?)
辿り着いた先が、再び修道院。
ここで、さらに隠されてきた真実が語られ、マーティンは激昂する。
それが罪の償いだと主張する修道院側。
その時、フィロミナは…。
宗教に馴染み無い日本人にとって、この時のフィロミナの行動はなかなか理解し難いかもしれないが、フィロミナはカトリック信者。これが彼女なりのけじめ。
お茶目に、哀切滲ませ、清く正しく。ジュディ・デンチが何のケチもつけられないさすがの名演。
マーティン役のスティーヴ・クーガンはイギリスのコメディアン。本作では脚本も担当、マルチな才能を見せる。
スティーヴン・フリアーズは「クィーン」に続いての好演出。
フィロミナがまだ見ぬ息子を思いやる気持ちが、何処までも一途で温かい。母の愛は深い。
実は、息子も…。
親子の絆は固い。どんなに時が離れようとも。
普遍的ではある。が、それこそが、“100万に一つ”の奇跡なのだ。