「赦すこと、赦さないこと」あなたを抱きしめる日まで kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
赦すこと、赦さないこと
言ってみれば息子捜しの母親とジャーナリストによるロードムービー。最初は互いに受入れられなかった凸凹コンビがアイルランドからアメリカへと旅をして、2人とも宗教面や天職、さらにはLGBTQについての認識が成長するという典型的なパターン。しかし、フィロミナの言葉を借りれば、100万人に1人の割合での奇異な体験をする物語・・・しかも実話。
もっとも注目されるべきはカトリック教会。ジャーナリストのマーティンは昔は信じていたと言っているほど理解はあるが信仰心はない状態。フィロミナが私生児を産んだというだけで4年間の過酷な労働を強いられ、しかも息子を引き離され行方知れずとなったことに憤りを覚えるほどだった。その批判精神が仕事を引き受けた動機でもあったわけだ。
アメリカに渡った2人は息子が10数年前に死んでしまったことを知る。しかもブッシュ、レーガン時代に法律の顧問を担当するほど偉い仕事に就いていたことも知る。それでも息子が母のこと、故郷のアイルランドのことを慕っていたかどうかを確認したい。記事にならないのなら自腹でアメリカに残るとも説得したフィロミナ。彼女に説得される形で、元同僚、元恋人を訪ねることになったのだ。
息子の写真にはケルトハープのバッジが・・・まさに一周回って故郷のアイルランド、しかも親子の縁を裂いた教会に埋葬されたという。教会が金のために養子縁組したという悪。シスターヒルデは罪はイエスが判断するのだと強硬手段。そして、成長したフィロミナの「赦す(forgive)という言葉がずしりと響く。
娘ジェーンの心情が最初だけしか出てこなかったり、周囲の反応もわからなかったりと、ロードムービーの特徴の一つなんだろうけど、ちょっと不満も残る。50年間誰にも喋らなかったというフィロミナの精神的苦痛も彼女の明け透けな性格によって吹き飛んでしまっているし、どことなく悲しくはならない悲劇だったと言えようか。