少女は自転車にのって : 映画評論・批評

少女は自転車にのって

劇場公開日 2013年12月14日
2013年12月3日更新 2013年12月14日より岩波ホールほかにてロードショー

サウジ初の女性監督が描く、10歳のヒロインの大いなる躍動

傑出したヒロインの誕生である。キャメラはまずその足元をしっかりと映し出す。整列し歌声を響かせる少女達は誰もが黒靴を履いている。が、主人公ワジダだけはスニーカーだ。このワンショットで静の中に動がほとばしり、やがてスクリーンには彼女の天真爛漫な表情が広がっていく。このナチュラルな描写力。本作でサウジ初の女性監督としてデビューを飾ったハイファ・アル=マンスールの才能を見せつけられた思いがする。

ワジダは賢く並外れた行動力を持っている。そんな彼女が手に入れたくてたまらないもの、それが自転車だった。どうやら男の子と競争がしたいらしい。しかしここはサウジアラビア。戒律厳しいこのイスラム社会では異性と遊ぶことも、女の子が自転車に乗ることもままならない。だがそう諭されても彼女は決して諦めず、自転車のために小金を稼ぎ、さらにはコーラン暗唱大会の賞金に惹かれて猛練習を開始するのだ。

もちろん自転車は糸口に過ぎない。少女の真っ直ぐな眼差しは他にも女性の前に立ちはだかる数々の壁をつぶさに視覚化していく。そこには多くの文化的制約が横たわり、また一夫多妻制をめぐる母娘の涙にはやり切れない想いが溢れるばかり。ただし本作はそこで生じる感情を怒りへ誘うことはしない。むしろ全てをワジダの豊かな感受性と大いなる飛翔力に託することで、作品に爽やかな風を吹き込ませるのだ。そこにこそ勝因がある。

宗教を尊びつつも、譲れないものは絶対に譲らない。自分の足で立てるよう茶色い大地を入念に踏み固めていくこのスニーカー少女の闘いに、イスラム社会の未来を担う新たなパワーの台頭を見た。映画館設置の禁じられた国からこんな傑作が生まれるとは、まさに奇跡というほかない。

牛津厚信

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