「体現者は語る」大統領の執事の涙 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
体現者は語る
7人の大統領に仕えた黒人執事の物語。実在の人物がモデルにされている。
波瀾万丈の人生!
奴隷から大統領の執事となったセシルのサクセスストーリー。
夫婦愛、活動家となった長男との確執、ベトナム戦争へ行った次男…ある家族の物語。
彼が見つめたアメリカ現代史。
その暗部である人種問題を問うた社会派ドラマ。
映画としても見るべき点が多い。
監督リー・ダニエルズにとっても、最も一般受けし易い作品。
執事はその場の空気となるのが鉄則。政治が動く場に一番近くに居ながら、何を聞いても何を見ても無関心を装う。
幼い頃に白人に父を殺された過去を持つ。長男が活動家として人種差別と戦っている。
本当はアメリカが抱える問題の体現者だ。
全ての感情を胸に秘め、仕事を全うする姿は高潔でさえある。
豊富なエピソードを詰め込んでいる為、展開が早く、少し深みが足りない印象も受ける。
特に前半(執事となるまで)はダイジェスト的だが、幼い頃に目の当たりにした人種差別、師から教わった執事としての心得など後々の要点は押さえている。
父を殺されたセシルが、長男と確執があるのが皮肉。
この父子の確執〜和解は、終盤のセシルのある決断に大きな意味を占める。
フォレスト・ウィテカーが名演!
働き盛りから晩年まで、一人の男の人生を見事に演じきっている。オスカーを受賞した「ラストキング・オブ・スコットランド」の迫力演技は今も鮮烈だが、彼の人柄から考えても、本作の方がハマっている。
準主役からチョイ役まで、実に多彩な面々が配されている。
歴代大統領を演じた個性派・実力派を見ているだけでも面白い。
その中の一人、アイゼンハワー大統領を、突然の死去が未だ信じられないロビン・ウィリアムズ。出番はほんの僅かだが、抑えた演技でアンサンブルキャストの一人に徹している。
黒人主役の年代物故、シビアな人種差別は避けては通れない。
今見ると、愚かで偏見に満ちている。
何世紀も前の話ではない、ほんの半世紀前まであった事。
晩年、セシルは黒人が大統領になるのを見届ける。時代の変革をまじまじと感じた。
先日見た「ウォルト・ディズニーの約束」と同じく、オスカーではことごとく無視された不遇の作品。
しかし、どちらも静かに胸に染み入るヒューマンドラマの良作!