「アイスマンの涙」THE ICEMAN 氷の処刑人 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
アイスマンの涙
表の顔は良きファミリー・マン。
裏の顔は殺し屋。
映画にうってつけの設定だが、これが実話とは…!
マフィアの殺し屋として、20年間で100人以上も葬ったというリチャード・ククリンスキー。
事実は小説より奇なり、とはまさにこの事。
人の表と裏の顔というか、二面性というか、常識では計り知れない。
血に染まった手で妻や娘たちを抱く時、何の躊躇も無かったのか。
ターゲットを殺す直前、相手にも愛する人が居るという事を微塵も思わなかったのだろうか。
その分別がはっきり出来ていたからプロの殺し屋で居られたのだろうが…。
映画は、妻との出会いから始まり、殺し屋としてスカウトされ、そして逮捕までを抑えた演出で描いていく。
暗殺シーンはプロフェッショナルの腕が光る。
やがて組織の魔の手は家族にも迫り…。
次第に焦燥していく様は、スリリングかつ哀しみも滲む。
100人以上も殺した凶悪人。
罪は必ず罰せられる。
いつまでも隠し通せる訳がない。
でも、妻と娘たちを愛していた…。
マイケル・シャノンの演技が圧巻。
危うい狂気を孕んだ役はもう十八番。
非道な殺し屋の顔と優しいファミリー・マンの顔を巧みに演じ分ける。
久々に女優ウィノナ・ライダーを見た。
マフィアのボスにレイ・リオッタ、クリス・エヴァンスやジェームズ・フランコらがクセのある役を演じる。
リチャード・ククリンスキーを全く同情の余地ナシと思わせないのは、妻や娘たちへの愛は本物だったから。
生まれ育ちのトラウマから暴力的な傾向はあったにせよ、もし、殺し屋の道など選んでいなかったら…?
“アイスマン”とは、殺したターゲットを凍りづけにする残忍な手口から警察が付けたあだ名。
アイスマンの目に涙が浮かぶ。
愛する者たちを悲しませた苦しみから。
氷のような男も人だった。