「コストパフォーマンスの高い力作」エンダーのゲーム tochiroさんの映画レビュー(感想・評価)
コストパフォーマンスの高い力作
原作は未読。
潤沢ではない製作費(1100万ドル?)の割には、出演者の顔ぶれと言い、SFX(VFX)の質と言い、非常にコストパフォーマンスが高い印象の映画だった。
原作はヒューゴー賞とネビュラ賞というSFとしては最高の評価を得ているので、おそらくもっと枝葉の多く深い内容を持っていると思うが、この映画もそのエッセンスは十分表現し得ているのではないだろうか。とにかく多少駆け足気味ではあったが、2時間弱の中にきちんとした物語世界が描かれ、完成度の高い作品だった。
フォーミックという昆虫型異星人の侵略を受け、何とか撃退したものの戦争状態にある地球。産児制限で子供は二人までとされている中、戦闘能力には秀でているが独尊的で暴力的なあまり指揮官としての人望がない兄と、優しさと博愛精神(他者との共感性)が強く戦闘には不向きな姉の、両方の因子を兼ね備えた第三子として特別に出生を許されたエンダー。この映画はそんなエンダーの戦士としての成長を描くと共に、指揮官の在り方も描いている。
ただ部下を怒鳴りつけるだけでなく、各メンバーの意見を聞きながら各々の個性を見抜き、それに応じた役割を与え作戦を完遂し、勝利の喜びを分かち合う。そんな冷徹さと共感性を併せ持った指揮官でなければ、配下の兵士も命を預ける気にはならないだろう。この作品世界の戦闘は主として遠隔操作の無人兵器によるが、それでも輸送船や前線で兵器を操作するための人員は必要で、彼らは戦死するリスクを負っているのだ。
実戦ではなく最終試験(ゲーム)と思わされたエンダーは、途中対話を求めるかのごとくのフォーミックの動きに困惑しながらも、上官に命じられるまま(バトルエリアでの対抗戦のように)味方の兵力を防御壁に使いながら最終兵器を温存し、敵の殲滅に成功する。しかしそれがゲームではなく実践であり、戦いの過程で多くの人命が失われたと知った時、エンダーは怒り悲しみそして悔やむ。あの時フォーミックとの対話を試みていれば、敵も味方も死なせずに済んだかもしれないのに、なぜ自分はそれができなかったのか・・・。
戦いを終わらせるためには、①敵を殲滅する、②敵対関係をなくす=友好関係を結ぶ の手段があるが、軍人である限り②の選択は無理であろう。軍人として不本意ながら①を実行した(させられた)エンダーは、軍を離れ自らの心の命ずるまま②の途を探ることになる。
ラストで新たな女王となる蛹(前線基地のある惑星を奪還した時、当然敵の残党を掃討した筈なのに、なぜ女王と蛹が発見されなかったかの説明がなかったが、それが話を紡ぐためには必要だったのだから、地球軍の眼が節穴だったか女王がうまく隠したと思うしかないだろう)を載せてエンダーは宇宙へ旅立つ。「両種族の対立を終わらせ平和を導く者」としての新たな使命を全うするために・・・。
救いのあるラストで心地よく観終わることができてよかった。原作にはまだまだ続編があるようだが、映画に関してはこの一作で十分だと思う。