愛しのフリーダ : インタビュー
ザ・ビートルズを支えた元秘書フリーダ・ケリーが明かす11年「人生を見せてもらった」
「本当に楽しくて幸せだったの」--少女のころと変わらぬチャーミングな笑顔で、世界的ビッグバンド「ザ・ビートルズ」の秘書時代に思いを馳せたフリーダ・ケリー。就職、結婚、出産という女性としての人生を送る一方で、ザ・ビートルズの成長を見守り続けた。バンドの解散後、取材に応じることはなかったが、50年を経てはじめて当時の記憶を紐解いた。スターダムとは関係なく、真しに4人と向き合った彼女だからこそ見ることができたザ・ビートルズの姿が、ドキュメンタリー「愛しのフリーダ」(ライアン・ホワイト監督)で解き明かされる。(取材・文・写真/編集部)
1961年、イギリス・リバプール。少女フリーダ・ケリーは、会社勤めのOLから、若手バンド「ザ・ビートルズ」の秘書へと転身。弱冠17歳にしてファンクラブの運営を任され、世界へと羽ばたく4人を揺るぎない愛で、支え続けた。そして72年、ファンクラブは閉鎖され、華やかな世界との関係を終える。
ケリーの青春はザ・ビートルズとともにあった。「60年代は、戦争が終わって女性が前よりも活躍する場が増え、ファッションが変わり、音楽が変わり、いろいろな意味で自由になった激動の時代だった。そういうときに10代だったということ、ビートルズと一緒に70年代まで一緒に過ごすことができたこと。本当に幸せで素晴らしい時間だったの」
11年をバンドと過ごしたケリーにとって、メンバーはビジネスパートナーである以前に、友人であり家族に等しい存在だった。70年の解散後、ケリーのもとには何度となく取材や書籍化の話が舞い込んだが、ケリーはメンバーのプライバシーを尊重し、「子どもや7匹の動物の世話をする主婦の生活に戻って、仕事も普通の会社に勤め始めてすべてを変えてしまった。ファンクラブが終わった時点で、私にとってはそこでの世界が終わったの」と胸の奥にしまい込んだ。それでも、バンドと世界中のファンを結んだケリーにとって、当時の記憶はかけがえのないものであり続け、予想もしない形で世に出ることとなる。
「友人の一人が話をするチャンスをくれて、私も話をするくらいならいいかなと思っていたら、娘が『どうせ話をするなら、孫が大きくなったときのため、忘れてしまわないうちに記録に残しておいたら』と言ってくれたの。それから、家族向けにホームビデオを作り出したんだけれど、話しだしたら止まらなくなってしまって(笑)。ビデオを撮ってくれていたのが、知り合いのライアンだったのよ」
こうして、家族を通じてケリーと親交のあったホワイト監督によって、ひとりの少女がザ・ビートルズに捧げた忠誠心、愛がカメラに収められていった。ケリーとバンドの関係と同じく、「愛しのフリーダ」もまた、心を許していた間柄だからこそ成立した。
本作は、ケリー自身の言葉によって、キャヴァーン・クラブでのバンドとの出合いから別れがつづられる。急成長を経て過渡期に差し掛かったバンドは、いかにして多くの問題を乗り越えていこうとしたのか。スクリーンを通じて、メンバーやスタッフとのエピソード、ケリーが発行していたファンクラブの会報誌など、貴重な資料に触れることができる。そのなかで浮き彫りになるものは、ティーンエイジャーのケリーは、純粋な友情ゆえに、バンドとその音楽に夢中になっていったということだ。「忠誠心は長い間に培って芽生えるもの。ザ・ビートルズに対してだけではなく、誰に対しても真しに付き合ってきたし、一緒に働くなかで彼らも同じように接してくれたことで、友人としての関係が築き上げられたの。自分から一方的に捧げるのではなく、相手も同じように向き合ってくれたから、私も心から尽くすことができてきずなが強くなったんだわ」
身近でバンドの歴史を見届けたケリーだからこそ見えたザ・ビートルズとは、どのような存在だったのだろうか。ジョン・レノンは80年に銃弾に倒れ、ジョージ・ハリスンは2001年に肺ガンと脳腫瘍のためこの世を去った。ポール・マッカートニー、リンゴ・スターは現在も第一線を走り続けている。ともすれば、特別なアイコンとされる彼らだが、「才能あふれた人であるけれど、やっぱり普通の人間だった」。解散直後はメンバーのたどってきた道を守ることに徹したケリーも、今では思いが変化した。
「今この時代のなかでは、『特別な人だと感じるかもしれないけれど、そんなことはなかった。彼らなりにあがき、苦労したことで今がある』ということを、みんなにわかってもらいたいわ。ポールにいたっては、サーの称号がついて別のレベルにいるように感じるかもしれないけれど、スタート地点を見ることができたら、近づけると思うの。ただすごいというだけではなく、もっと彼らの音楽を楽しめると思うし、楽しみ方も変わると思う」
ともに過ごした11年で、ケリーは華やかな絶頂期の裏側も目撃した。彼らとの関係性や秘書としての経験は、彼女の人生にも大きな影響を与えている。「ザ・ビートルズが名声を手に入れるため、苦難の道を通る様子を側で見せてもらったことで、思慮深く人間的になったと思うの。名声や富だけではない、人間としてあるということかしら。彼らとの10年はものすごく楽しくてあっという間だったけれど、(楽しい時間は)ずっと続くはずはないということ、その後に待っているもの、人生を見せてもらったわ」
ファンクラブ代表として、世界中のファンの思いを受け止めたケリーは、どれだけバンドとの距離が縮まろうと、“ビートルマニア”であることを忘れなかった。だからこそ、熱狂する人々の思いを汲み取り、バンドとファンをつなぐ架け橋となることができた。その思いは今でも変わることはない。「ビートルズファンには、ビートルズファンの気質が絶対あると思うの。今も昔もファンの私にとって、その気質は変わらないし、あなたたちにも共通しているわ。フレンドシップとでも言うべきものかしら。同じものを持っているのね。だから、私はビートルズファンと一対一で話をするのが好きなのよ」。今もなお、世界を魅了してやまないザ・ビートルズの魔法は、フリーダ・ケリーというひとりの女性の愛に支えられていた。