「凍りつく。」フォックスキャッチャー ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
凍りつく。
観ている最中に背筋が凍りつくほど低体温になること間違いなし、
もはや実話を超えた戦慄に襲われてしまう素晴らしい完成度の作品。
デュポン財閥の御曹司J・デュポンが起こした金メダリスト殺害事件。
ソウルオリンピックといえば記憶に遠くない、まさかこんな事件が
起きていたとは…レスリングの地味さ(今作でも強調される)でみても、
素人には絡みと取っ組み合い(寝技多し)という感じで分かり辛いのが
難点のような気がするが、それがジョンの母親にも下品なスポーツと
いう印象を与えたのかもしれない。金メダルを手にしても生活は楽に
ならず、そこへ財閥御曹司からのスポンサーの申し出とくれば、二つ
返事で飛び付いても不思議ではない。弟がフォックスキャッチャーに
移り住んで以来、不穏な空気はさらに色を増す。実在したジョンと
いう人物も複雑ではあったようだが、多くのスポーツ振興面で尽力し
(有り余る金の寄付など)スポンサーとして貢献した人物だったらしい。
彼が殺害事件を起こした真の理由も定まらず(精神異常や炸裂)結局の
ところ誰もが信じられないという状況のまま逮捕、裁判、投獄される。
今作では弟マークとの関係に重きを置き描かれているが、そのことで
マーク本人がアカデミー賞ノミネート前にケチをつけたことでも有名
(のちに撤回)、実際に観てもジョンの行動は観客にも理解不能である。
子供のまま大人になった金持我儘の気質そのままに、何でも金に物を
いわせては他人を買収し誑し込む形でしか自身を吊り上げられない男。
特に母親から認められたかった(愛されたかった)部分が見てとれるが、
精神面ではマークも兄デイヴの擁護から独立したかった側面が強い。
S・カレルは童貞男から複製男への変貌を見事に遂げ、C・テイタムは
暗いボンクラ体質を見事に表現、不穏と狂気が全場面を支配している。
(あれ、S・ミラーがまた奥さん役?アカデミー賞奥さん専門女優か^^;)