「ゾッとした」フォックスキャッチャー 古泉智浩さんの映画レビュー(感想・評価)
ゾッとした
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何の情報も入れずに見に行ったら、スポーツドキュメント的な映画みたいな内容なのに、サスペンス調も重々しいトーンで、何の映画か本当に分からなかった。物語のポイントも示されないままで、それが次第にマークはコミュ障で、デュポンは悲しい空っぽの子供おじさんという輪郭が見えて来てから、なんていうか結末のとんでもない展開まで、悲しくて切ない恐ろしい映画だった。
デュポンは童貞じゃないかと思った。お母さん以外唯一触れる女性が、デイヴの奥さんで滅茶苦茶愛想が悪い。金で全てを手に入れようとするけど何も手に入らない、特にソウル五輪でマークをタオルで扇ぐ様子が悲しすぎる。お金で一応あそこにいられる事がすごい。
デュポンがなぜデイヴを殺したのか、露骨に自分を嫌悪するマークの方が殺されそうなものなのだが、実際彼を苛んでいたのはデイヴだったのだろう。メダリストであるというだけでなく人柄がよくて、家族を愛している、メダリスト以外の普通の部分こそがデュポンにとって最も欲しくて一生手に入れられないもので、自分に対しても敬意を払って普通に接してくれるところに耐えられなかったのだろう。
デュポンが岡田斗司夫さんに見えてしかたがなかった。岡田さんを苦しめるのは罵声や嘲笑ではなく、普通に成熟した人の普通の幸福なのかもしれない。
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