「痛みに鈍感な」渇き。 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
痛みに鈍感な
ストーリーも描写も、装飾過多で、リアリティに欠く。
(この監督さんの作品は毎回確信犯的にそういう作りだ。)
なので、バイオレンス&セックス&ドラッグ描写も、あんまり痛くない。
そのまま「嘘っぽさ」を貫いて行けば良いものの、どうでもいいシーンで、現実味を匂わす。
ファミレスで母娘(役名は無い、エキストラ)が物を食べている1シーンがある。特にセリフも説明も無い。普通の親子の普通の光景だ。それなのに何とも言えず寒々しい。痛々しい。酷薄な感じすらする。
何でこんなシーンを入れるのか。普通の風景も普通の親子も、実際、痛々しいんですよ、映画以上に。とでも言いたいのか。非常にイヤで印象的なシーンだった。
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加奈子、その母親、そして父。
母親は、自分の渇きを癒すのに精一杯(不倫とかして紛らわす)。
父親も、自分の渇きを癒すのに精一杯。
加奈子を好きな中学生と、父親の描写が、クドいくらいに交互に出てくるので、
二人の「加奈子はオレのもの!オレは加奈子のもの!」という愛情?恋情?劣情?が同レベルに見える。
父性愛というより変態。暴かれて困るのは娘の悪行より寧ろ父親の中身。
母性も父性もあったもんじゃない。その帰結として、子ども達(加奈子ら)は、
自分の痛みには敏感だが、他人の痛みには鈍感な、愚かな群れとなる。
(この映画、ハチャメチャなようで、因果な話だなと思う。)
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自分の痛みには敏感だが、他人の痛みには鈍感な、群れ。
露悪的でリアリティに欠く描写は、「こんなの映画の中だけの話だから安心してね(笑)」と言ってるようでもあり、
無駄に現実味を匂わすあたりで、「実際、みんな、他人の痛みに鈍感じゃん。自分を振り返ってみれば?」と観客に説教を垂れている感じもする。そこが、この映画の居心地の悪さなんじゃないかと思う。
バイオレンスな外皮が「毒」なのではなく、もうちょっとタチの悪い「毒」がある映画だなあと思った。
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追記:バイオレントな本作、タランティーノや70年代邦画に、ちょっと寄せて作ってある。でも、それらの作品を観ても居心地の悪い感じはしない。
タラ映画にはある種のヒロイズムがある。70年代邦画はフィジカルな滾りがある。
この映画、そこらへんをあえて排除しているなあと思った。