「後世に残る傑作かそれとも駄作か意見が二分される作品」渇き。 てるねさんの映画レビュー(感想・評価)
後世に残る傑作かそれとも駄作か意見が二分される作品
とても不思議な作品です。
とても不思議な感覚に陥ります。
クリスマスのシーンで流れる音楽が私の頭から離れず、頭の中で鳴り続けます。
またラストシーンが頭から離れず、今でもいろいろ思案を巡らしてしまいます。
聖なる物と俗なるもの。その対比がとても上手いです。
中島哲也監督作品は「嫌われ松子の一生」がとにかく好きでした。残酷シーンとファンタジー的なミュージカルシーンの融合にえらい衝撃を受けたのが、昨日のように思い出されます。また、この話は実際にあった事件を基にしていました。
中島監督は決して同じ感覚では作品を作らない監督と認識しており、本作も非常に期待して見ました。
知人からとにかくグロイと聞いていたので、身構えて見た為、表現に関しては私はそれほどでもありませんでした。
先日見た「300帝国の進撃」や「マチューデキルズ」の方が残酷描写は上です。
なにせ、「300帝国の進撃」は3D画面上で血が炸裂し首や腕が吹っ飛ぶのですから。そこまでこの映画の描写は凄くありません。
要は、残酷描写の為の残酷描写なのか、それとも残酷描写の先に何があるのかという事です。
またこの作品は、実際血が飛ぶ箇所をアニメに切り替えたりしています。
そこらあたりの表現方法は相変わらず中島監督は上手いなあと感じました。
残酷シーンは確かに多いですが、晴れ渡る空のカットが何度も出てきたり、アニメーションの場面があったり、ちゃんと心理的ガス抜きを考えてこの作品を作っています。
役所広司はあんだけ暴行を受けて死にそうで死なないのはターミネーターを連想させ、逆に私は笑いました。
車にはね飛ばされるシーンもフィルムのつなぎ合わせで処理しているのか分かりませんが、見ようによっては笑えます。
とにかく私はラストシーンで、えも言えない感動を覚えました。これだけ深い感動は初めてです。
これだけ凄い映画も初めてです。
映画を見たというより体験させられた感じです。
トラウマといってもいいかもしれません。
強いて言えば、加奈子の描き方がどうなのかと思いました。
加奈子は天使か悪魔か?
僕は天使だと思いました。
映画もそのような描き方をしています。
周りの登場人物が余りに救いようのない人物だから、特にそう感じてしまいます。
加奈子はすでに死んでいるので、死人に口無しなので、ひいき目に見てしまうからでしょうか。
優等生で心優しい少女がなぜ変わるのか。
それは好きな男の子の自殺だとこの作品は語ります。
しかしその男の子の自殺は自殺では無く、加奈子が殺した事になっています。
好きゆえ殺した。映画「愛のコリーダ」と共通のテーマです。
加奈子がもし女子校生ではなく、男子校生だったらこの話はつまらないです。
女性の持つ、天使性と悪魔性をこの作品は表現しています。
発表当時、大ブーイングだった作品が後世で傑作となる例は芸術の世界では多いです。
クラシック音楽で言えばストラビンスキーの「春の祭典」などは明らかに傑作ですが、初演時は全く受け入れられませんでした。
やはり、ネックは不道徳です。
でも、この作品は単なる不道徳で片付けて良い作品でしょうか?
クリスマスのシーンが出てきますが、やはり描き方が上手い。
神が出てくる訳ではないですが、自分はそこに神を感じました。
そのへんは憎しみを通しての愛という事で「ベン・ハー」に通じるテーマです。
憎しみの権化となった主人公ベン・ハーが神の愛によって救われます。
でもこの映画は全く救いがないようにも思えます。
果たしてそうでしょうか?
死んだ加奈子は救われたか。
あの真っ白な雪のシーンが答えを出していると思います。
みなさんは「パッション」という作品をご存知ですか。キリストの受難を描いた作品ですが、そのあまりの残酷描写にショック死した人まで出たいわく付きの作品です。
キリストの受難ほど、残酷なものはなく、それほど残酷性と神聖なものは一対をなすものではと感じています。
最終的な判断はあなた自身がして下さい。傑作か駄作かは。
「つまらない」「駄作」と思う方は、この作品の奥深いテーマを理解出来ない人だと私は感じてしまいます。
実際有り得ない話と思ってしまいますが、この先、このような出来事がもし起こったとしたら、その時、この作品の作者は現代の予言者だった事に人々は気付くでしょう。
最後に中島監督での「進撃の巨人」是非見たかったです。なぜ降板されてしまったのでしょうか???
映画の世界も色々あるのですね。
我々が映画館へ行かなければ、映画産業は成り立ちません。
映画館へ足を運びましょう!