「こんな現実が有っては絶対にいけない!この事件を決して忘れてはならないと思う」フルートベール駅で Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
こんな現実が有っては絶対にいけない!この事件を決して忘れてはならないと思う
今年は、何故か、アフリカ系アメリカ人に対する差別問題を描いている作品が多い年廻りである。
大好きだった「大統領の執事」の公開に続き、アカデミー作品賞受賞作の「それでも夜は明ける」が今年の早春に日本でも公開された。
この2本の作品は共に実話に基づいたアフリカ系アメリカ人に対するアメリカ国内で起きた差別の歴史を映画化したドラマだ。
しかもこの2作は共に、黒人監督が撮り上げたと言う点でも、これまでにない試みでも有り、そして制作段階でも「大統領の執事」では映画制作に対する多くの反対が有り、撮影準備は難行していたとも聞いている。
だがそんな話を耳にすると一つの疑問が湧いた。
2008年にアメリカ史上初の黒人大統領のオバマ政権も誕生し、彼の任期も2期続投で、今や、アメリカ国内に於いては、アフリカ系の人々に対する偏見や差別はこれまでよりは、軽減されてきていると、能天気の私は勝手に信じていた。
しかし、余りにもこの手の映画が連続して制作されている背景として、現実的には、やはり差別や偏見がオバマ大統領誕生を契機に、日常から軽減される事は、期待される程多くは無かったのかもしれないと言う持論を持つに今では至った。
そして本作「フルートベール駅で」を観て、この事件が実際に起きたのは2009年と言う事を知り更に驚きと共に戦慄が背中を這って行くのをシミジミと感じるのだった。
やはり長年にわたり差別をしてきたと言う歴史が現実的に有る以上、そう簡単に、人々の心の中から、その差別する意識だけを取り除くような改善する方向に持って行くと言う事の現実的な難しさが有る事をこの映画を通して学んだのだった。
この映画の主人公のオスカーと言う青年は僅か22歳と言う若さで、警察官の一方的な不当逮捕事件に巻き込まれ、そしてその時に起きた発砲事故に因って命を落とす事となった彼の最期の数日を描いた哀しい物語だ。
このオスカーを演じているのは「クロニクル」で一躍注目されたマイケルBジョーダンだと言うが、私は未だその作品を観ていないので、本作が彼を観る始めての作品となるのだが、暗い過去にも負けずに前向きに再生しようと試みる若い青年の役を見事に熱演している。だが、この映画で最も特筆するに値するのは、このオスカーの母を演じたオクタビア・スペンサーが、誇り高く立派な信仰と共に強く優しく責任感ある母親を見事に演じきっている点が見事だ。彼女の芝居が生きているからこそ、オスカーの家族が如何に絆を強く持ち、自己に恥じない立派な人生を築く為に、日々精進して生活して来ていたかが見えて来る。そしてその日常こそが、人が生きる事、人生そのものであり、生命の素晴らしさや家族の絆こそ、何物にも代え難く大切で有る事を語ってくれる秀作であった。