「「被害者」ではなく一人の人間としての人生を感じ取ることができる一作」フルートベール駅で yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
「被害者」ではなく一人の人間としての人生を感じ取ることができる一作
『クリード チャンプを継ぐ男』(2015)、『罪人たち』(2025)など、マイケル・B・ジョーダンとのタッグで様々な名作を手掛けてきたライアン・クーグラー監督による、劇場公開長編映画のデビュー作です。
本作の主演ももちろんマイケル・B・ジョーダンで、彼らの関係がいかに継続しているかを実感することができます。
本作は、2009年の新年を迎えた直後の深夜、米国カリフォルニア州オークランドのフルートベール駅で、オスカー・グラントが警官によって射殺された実際の事件について描いています。作中クーグラー監督の視点は、時に時系列が切り替わりつつも、常にグラントに寄り添い、彼を事件後に生じた大規模な抗議活動の発端となったシンボルとしての「犠牲者」ではなく、ひとりの家族を持つ人間としてどう生きたのか、を語ります。
そこから浮かび上がってくるグラントの姿は、時に失敗し、決して褒められたような言動を繰り返すものの、懸命に立ち直り、家族のために生きようとする一人の人間でした。
事件のその後については結末に簡素な一文を添えているだけですが、それまでの丁寧な描写の積み重ねが、事件の扱いに対するクーグラー監督の怒りを静かに伝えています。
彼がエンターテインメント作品の監督として一流の腕前を持つことは、これまでのフィルモグラフィで証明済みですが、それらの作品作りの根底には、この怒りが原動力としてあるということを強く実感させてくれる一作でした!
コメントする
