「父よ母よ、あなたたちは生きる理由です…と伝えたい」青天の霹靂 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
父よ母よ、あなたたちは生きる理由です…と伝えたい
劇団ひとりの映画初監督作。
お笑い芸人なのでもっとコメディ色が濃いかと思ったら、これが予想に反して感動作!
さすがに芸人監督の巨匠・北野武ほど秀でるものは感じなかったが、松本人志みたいに変に作家性を出そうとはせず、ベタではあるがツボを抑えた手堅い作り。
笑わせて、泣かせて…の作風はウッチャン監督作的で、図らずも素直に感動してしまった。
原作は自身の書き下ろし小説。そういや彼は(一冊だけ)ベストセラー作家でもあったっけ。
序盤は何と湿っぽい。
39歳の売れないマジシャン・晴夫。
父が他に女を作って母はとうの昔に家を出、その父とも音信不通。
生活は最低、どん底の人生。
追い討ちをかけるような突然の父の訃報。
父の写真を手に、自分の惨めな人生を泣き喚くシーンはウルッときた。(ちょっと自分も人生に意味を見出だせない時期があったので…)
その時!“青天の霹靂”な出来事が…!
雷に打たれ死亡…ではなく、気が付いたら、40年前にタイムスリップ。
ここ、何処!? 今、何年!? 何で俺ここに居るの!?…と定番通りに取り乱さない晴夫。
それどころか、(現代に)戻れる場所は無く、戻りたくないと言う珍しいタイムトラベラー!
この時代で生きる事を決めた晴夫は、ひょんなことから現代じゃ定番マジック・スプーン曲げが目に止まり、浅草の舞台で(何故か)インド人マジシャンとしてデビュー。
しかも、アシスタントに美人さんが。
メキメキと人気が出始め、その美人アシスタント・悦子に言い寄ったり。
この時代、サイコー!
が、彼女は実は…
男と同棲していた。
同じマジシャン芸人らしいが、相当なダメ人間っぽい。
警察の世話になり、悦子の変わりに迎えに行って…
ここからが本筋と言っていい。
男は、若き頃の父。
そして悦子は妊娠している。
自分が生まれる直前の父と母であった…。
顔を合わせたその場で父とは積もり積もったものもあって大喧嘩。
昔からろくでなし。
しかも、コンビを組まされる事に。
当然相性は最悪。舞台上でまた大喧嘩。
が、それが何かウケちゃって…。
次第に父といいコンビになっていく。
分かり合えば案外いい奴…?
が、依然消えないわだかまり、疑問。
何故父と母は自分を捨てた?
やがてコンビでTVの世界へ、オーディションも進んで行った時、妊娠末期の悦子が倒れ…。
明るくコミカルな役柄が十八番の大泉洋だが、「アイアムアヒーロー」など冴えない役もイケる。またこの人がやるから可笑しくて、悲哀もたっぷりで。
劇中度々披露するマジックが見事!
監督は父役も。芸人の中でも演技は悪くない方なので、大泉洋との掛け合いは絶妙。
舞台で披露するネタは本気で面白い。まさかここで彼の中国人ネタが見れるとは!
どうしようもないろくでなしだが、本当は…って人情キャラは、劇団ひとりが敬愛する山田洋次作品の登場人物のよう。そういや下町の雰囲気も。
何と言っても特筆すべきは、柴咲コウ。
今作での彼女、スゲーイイ女!
しっかり者で、時々劇団ひとりをビンタするほど気も強くて、優しく温かく愛情に満ち溢れてて。
芸人監督映画に欠かせない“理想の支える恋人”なのだが、多分柴咲コウの魅力もあってか、改めて彼女に見惚れたね!
晴夫が知った自分の出生の秘密。
何故父がそれを隠して真実を話さなかったか腑に落ちなかったが、父の本当の愛情深さを知って心打たれた。
我が子に重荷を背負わせるくらいなら、いっそ自分が…。
どんなに自分の人生が惨めで、何故こんな自分を生んだのか。
どんなに両親を憎んでも、両親はどんな思いで自分を生んだか。
それが上手く伝わらなくてもいい。
全く伝わらない事は絶対無いし、伝わった時、その思いが自分の生きる理由になる。
ラストのちょっとしたオチ(それに重なる川辺のシークエンス)と「○○○○○」の言葉も良かった。
>ラストのちょっとしたオチ(それに重なる川辺のシークエンス)と「○○○○○」の言葉も良かった。
同感です。最後にきちんとオチをつけるところが、お笑い芸人の矜持を感じました。
ラストシーンのカメラワークが、しみじみと映画的で良かったですね。