「何か物足りない」ジャッジ! CRAFT BOXさんの映画レビュー(感想・評価)
何か物足りない
クリエーターを目指して広告代理店に勤める主人公が、会社の先輩から無理難題を押し付けられて、国際広告祭に審査員として参加することになった。自社の大手クライアントのCMを受賞させなければ首になる主人公だったが、世界中からそこに集まったクリエーター達も、それぞれの思惑の中で不正を厭わない露骨なロビー活動を展開する。そんな中で、主人公持ち前の純粋なキャラクターで、広告祭で活躍していく……。CMプランナーである澤本嘉光が脚本し、CMディレクターの永井聡が監督を務める。実際のCMクリエーター達が、広告業界の内幕を描くコメディー作品。
脚本の澤本といえば、ソフトバンク、セコム、トヨタ自動車の広告を世に送り、監督の永井は、ファンタ、ダイハツなどのCMを作ってきた。二人とも、ACCやカンヌ国際広告祭で大きな賞を受賞した有名な広告クリエーターである。
もちろん多いい脚色はしているものの、広告業界の醜さや酷さを自虐的に描いている。豊川悦司演じる主人公の先輩が「無茶と書いてチャンスと読め」と言い放つが、まさにそんな世界である。ほぼ完成した「完パケ」という状態まで出来上がった広告が、クライアントのちょっとした行き違いなどで全否定されて徹夜で作り直さなければならない事など誰もが経験する世界。
広告祭についても、あそこまで露骨かどうかは別にして、純粋に作品として評価されたものが受賞するとは限らない。
そんな魑魅魍魎の世界の中で、純粋な心を持つ主人公に、周囲のクリエーター達が影響されていく。
素材としてはなかなか面白い。劇中に登場するキツネのうどんのCMや、如何にもダサい竹輪のCMなどの使い方も面白い。主人公の妻夫木聡以下、豊川悦司、リリー・フランキーあたりも好演してる。
ところが、今一つ面白さが足りない。いや、それなりに楽しめるのだが、どうにも素直に「イイ!」って言い難い。
一つには、北川景子演じるヒロインと主人公の恋愛ストーリーがあまりにもオザナリ過ぎる。ツンデレのヒロインが、どの辺で心境を変化させて主人公を好きになっていくか、よく分からない。
もう一つは、劇中に登場するトヨタのCMが、全く面白くない。このCMが素晴らしいからこそ、クライマックスで、主人公は自分の立場が悪くなってでも他社のCMであるトヨタのCMを推薦する事になる。
ところが、何度か登場するトヨタのCMはそれほど出来が良くない。これではダメだ。かつて日本の広告は、世界の中で最も評価されていた時期がある。そういう圧倒的な質を持ったCMを、映画の中で見せてこそ、この映画は成功するはずだ。逆に言えば、そこに最大の力を入れるべきだ。しかし残念ながら、劇中のCMにはそれほどの説得力がない。
まぁ、広告クリエーターが映画の世界に進出するのは大歓迎なのだが、もう少し本気を感じさせてくるような作品を期待したい。