「“汚い”から美しい映画」そこのみにて光輝く kicks1126さんの映画レビュー(感想・評価)
“汚い”から美しい映画
風船のように自由に飛んで行きたい。
逃げたくなるような現実がそこにあるとき、そんな風に思うことがある。しかし、結局その自由願望は逃げでしかないため、逃げられない。
この作品は人生からは逃げられないのだという場面をこれでもかというほど見せつける。
地縁、血縁、歴史、罪。。
人生はまるで鎖に繋がれているようだ。
映画を見ながらこれほど息苦しくなることはそうそうない。何故なら、この作品には“メタ”視点をもたらす存在がいないからだ。全員が“ベタ”=主体。
誰かしらが何かに囚われ、苦悩している。
演出としても、メタが不在な上に、それを和らげる音楽も無いから、見る側は剥き出しのリアルを見せつけられているようだ。
とにかく“汚い”。街が汚い。人が汚い。現実が汚い。
しかしそれはリアルの間違いなく存在する一面だ。それを音楽や救世主で中和するのは嘘くさい。それを描くのが映画のリアルだろう。その意味でこの作品は映画らしい映画である。
そんな鎖に繋がれるような人生の中で自由な瞬間がわずかだが存在する。それを見せつけられてくれるのもこの作品だ。
池脇千鶴の素晴らしいセリフがあった。これを聞いた瞬間、私は主人公より先に涙してしまった。それだけ物語に入り込んでいた証拠だろう。
池脇千鶴は素晴らしい女優で居続けてくれている。
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