天心のレビュー・感想・評価
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岡倉天心の人間像が見えてこないのが致命的。竹中直人は(私のこの役者への好悪は別にして)ミスキャスト。
①岡倉天心がどのような人物だったのかが最後まで観てもわからない。日本近代美術の大家達がこの人が一生の師と付いていったカリスマ性も感じられない。小難しいことをほざく竹中直人としか見えないのがイタイ。②また、人物像だけでなく、明治の日本美術史において岡倉天心が果たした役割も殆んど描いておらず台詞や文字で説明しているだけ。『北斎』でもそうだったが、既に歴史上評価の固まっている人物を描く時、その既成の事実に乗っかって(既に観客は知っているという前提で)手を抜くのは日本映画における伝記映画の悪しき伝統か。青年期の天心と壮年期の天心とに全く連続性が見られないのも問題。③平山浩行は準主役といっても良い菱田春草役を好演。現代性がちらつくところもあるが、舞台や養成所のようなバックボーンがなく演劇の世界に入って10年足らずとしては堅実な演技を見せる。早逝した春草役としては年齢的にもちょうど良かった。キタキマユとの春草夫婦のエピソードが一番良かった。
茨城の海と波と、月と松がきれいだった
江戸時代の鎖国の時代から、明治維新で西洋の文化が本当に急激に入ってきた。それは怒涛のごとく容赦なく、あらゆる方面にわたっていた。建築とか法律とか軍事にわたっても入ってきた。明治の初期はあらゆるもので混乱と混沌があったと言える。当然絵の世界でも入ってきて、そのうち日本人すべてが「日本の伝統的良いものよりも、西洋のもののほうが良いものと考えてしまう」ような風潮になっていた。
富国強兵が叫ばれ、急激な欧州化によって日本の文化が軽んじられることとなる。廃仏毀釈もそんな頃行なわれた。仏像は破壊され、寺はつぶされた。そんな混乱のなかから、天心たちは新しい日本画の世界を創造しようとするのである。天才が故の狂気と、本物を求めるが為の貧困と、闘いながら彼らは事あたることとなる。それらが十分に表現されている映画だといえる。全編とてもよかったと思う。
映画の中で印象に残った場面は、木村武山の「阿房劫火(あぼうごうか)」という絵に対し、天心が・・・・・・・・・。
それから全編に表れる茨城の海岸線の波も、月も松も美しく、実に素晴らしい風景であった。
天心たちが五浦で過ごした時は、明治39年からの4~5年にすぎない。その短い間に彼らは、近代日本画の華々しい成果を世に表したのである。
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