「流行り病と長患い」相棒 劇場版III 巨大密室!特命係 絶海の孤島へ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
流行り病と長患い
いやね、悪くはないと思うんです。
悪くはないと思うんですが。
うーむ、期待値を上げすぎてたというか。
期待していた路線と違ったというか。
絶海の孤島での殺人事件というシチュエーション。
“『相棒』史上最高密度のミステリー”という謳い文句。
ここからのイメージだと、僕としては
金田一耕助シリーズ等のおどろおどろしくて
どろりとした雰囲気の連続殺人もの、
あるいはジョン・マクティアナン監督の
『閉ざされた森』のような、ヒネリを
利かせまくったミステリ(あの作品は
ミステリとしての強度はもう一歩だけど
雰囲気は好きだった)を期待してしまう。
けど、違うんすよね、今回。
ミステリとしての強度よりも、事件を通して浮かび
上がってくるテーマをより重視した作りになっていた。
* * *
『相棒』を長く観られている方ならご存知と思うが 、
ドラマシリーズの『相棒』は各エピソードを
多くの脚本家の方々が書かれており、
なかでもメインエピソードを多く手掛ける興水泰弘氏
の脚本は、警察あるいは国家のシステムに潜む
危うさや矛盾点をフィーチャーしたものが多い。
端的に言えば、テーマのスケールがデカい。
で、彼の脚本は、テーマに重きを置きすぎてミステリ
としての出来がかなり雑になる場合がちらほらあると
僕個人は感じている。
今回の劇場版はそちらのパターンだと思う。つまり、
テーマ重視で物語を観る方はきっと気に入るだろうが、
『純粋にミステリを楽しみたい』あるいは
『ミステリと重厚なテーマのバランスを楽しみたい』
という向きには不満が残る出来だと思っている。
殺人の偽装トリックは“トリック”と呼べるほどのものじゃ
無いし、犯人を追い詰める証拠も決め手に欠ける。
そもそもあんな証拠の品を残している所も違和感。
* * *
じゃあ全然面白くないかというと、そんなことはない。
劇場版ならではのスケールを感じさせる点も多いし、
『相棒』ファンならニヤリのシーンも満載だ。
まず画作りで言えば、
ドラマよりも陰影が強くザリザリとした感じや
鬱蒼とした密林の風景は見応えがあるし、ハデな
爆破シーンや特殊部隊+ヘリ登場も劇場版ならでは。
そしてその異常状況でも紅茶をたしなむ右京さん(笑)。
いつも通りの好奇心とフットワークでどんどん事件に
首を突っ込んでいく。
2代目相棒の神戸くんと3代目相棒のカイトくんの
やり取りにもクスクスさせられたし、
お馴染み捜査1課トリオ(三浦刑事、今回だけ復活!)
と鑑識の米沢さんが、いつもの右京さんらしい
強引なやり方でイヤイヤ(笑)捜査に参加させられるのも
可笑しい。
* * *
そして、テーマについては流石は『相棒』。
あまり細かくは書かないが、
『自衛』という目的の為に赦される行為の
きわどい境界線について、その線の
“あちら側“と“こちら側”の主張を
非常に分かりやすく示してくれる。
このテーマに対する答えは映画内では示されない。
そりゃそうだ。2時間の映画で答えが出るほど
簡単な話なら、とっくに世界中ピースフルだ。
要は右京さんやカイトくんのように、
現状から目を背けず、かといって極論に走らず、
“あちら”と“こちら”の立場の人々が妥協し合える道を
探し続ける意識を持つ事が肝心なんだろう。
とまあ、当たり前の事をエラそうに語ったところで
今回のレビューおしまい!
<2014.04.27鑑賞>
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余談:
冒頭の脚本家つながりで一言。
『相棒』劇場版の中では僕は『1』が一番好き。
話にケレン味があって、テーマも市井の人々の
心情に寄り添ったものだったと思う。
ちなみに『1』の脚本は戸田山雅司氏。
あと、各エピソードと脚本家さんをそんなに
しっかり把握してる訳じゃないが、最近は
太田愛氏の脚本作品がお気に入り。