「好き嫌いは別として脳を犯される作品でした。」オンリー・ゴッド Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)
好き嫌いは別として脳を犯される作品でした。
説明的な台詞や描写が省略されているため非常に分かり難い、抽象的な本作。
個人的には(どんなにヘボでも)誰かの解釈や意見を踏まえた上で観た方が楽しめる作品だと思います。
ので、以下に私の内容に対する解釈を。
本作は主人公であるジュリアンの改宗と懺悔、そして救済が描かれています。
支配し搾取する神から、厳正な裁きのみを行う神への改宗。
改宗に伴う罪の懺悔と裁き。
そして、裁きを受けた末の救済。
まず序盤のジュリアンは母であるクリステルに支配/搾取されています。
序盤のジュリアンにとっての神はクリステル。
作中では大人となったジュリアンのみが描かれていますが、母の命令を絶対とし意に沿わない復讐に向かう姿は彼と母の関係性とその強固さを露わにしています。
それは兄であるビリーも同じ関係性であったと推測されます。
ジュリアンとクリステルの会話の中では近親相カンの関係性も仄めかされており。
兄が無力な少女を好みとしている点やジュリアンが不能として描かれている点は彼等が母から性的な搾取を受け歪んでしまった結果と捉えられます。
その結末として兄は或る大きな過ちを犯し殺害。
その復讐を母こと神に命じられるジュリアン。
但し、この時点でジュリアンは命令に違和感を覚えています。
支配/搾取する神に対して不信感を抱いている。
己の倫理観と神の価値観に齟齬が生じている。
対して登場するのが謎の男 チャンという神。
裁判もせず罪人に対して独自かつ厳正なる基準のもと裁きを下す。
現地の住民に怖れ崇められている。
何もない空間から執行用の刀を突如取り出す。
チャンは厳正な裁きを無慈悲に行う神。
罪人の背景や事情に関わらず、犯した罪の重さのみで判断し裁きを与える。
そして何故か裁きを下した後にカラオケに。
この行為の解釈を彼自身の懺悔と捉えるか、罪人に対する鎮魂歌と捉えるかで彼の人間らしさが大分違いますが。
少なくともカラオケでの熱唱が一種の儀式として描かれています。
兄を殺害した犯人を捜す中でチャンに近付いていくジュリアン。
ジュリアンの動きとは別にチャンの殺害を手下に命じるクリステル。
彼等の動きを踏まえて行動を起こすチャン。
或る出来事を経てジュリアンはチャンと直接対決することに。
味わうチャンとの圧倒的な力の差。
ここでは圧倒的な力の前に屈服するジュリアンが描かれています。
その後、再びチャン殺害を母に命じられたジュリアンは。
…という所で終盤に。
終盤の展開は敢えて触れませんが。
これまで薄暗く赤黒い地獄のような背景が続いていた中で終盤の或る場面で一気に色が澄み静寂が訪れる。
その背景がジュリアンの心境、清々しさ、救済を描いていたように感じました。
原始的で濃く暗い色使いや
処刑シーンの「溜めて溜めて溜めて…スパーーンッッ」というスローと超高速の緩急。
そして抽象的な物語。
好き嫌い、良い悪い、は別として。
観ていると脳をグッチャグチャにされ強制的にトランス状態にされる、脳を犯される作品でした。
…鑑賞後、頭の整理が出来ず何となく街を1時間程度徘徊しました。
少なくとも自宅でDVD鑑賞の場合は10分で止めてしまう可能性大。
映画館で強制的に最後まで鑑賞し、強制的に脳をグッチャグチャにする体験を偶にはしてみてもいいのではと思います。
オススメです。