劇場公開日 2014年1月25日

  • 予告編を見る

「映画の中の暴力のように色濃くもじんわりと爪痕を残す」オンリー・ゴッド cani tsuyoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5映画の中の暴力のように色濃くもじんわりと爪痕を残す

2014年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

難しい

前作『ドライブ』に引き続きタッグを組んだニコラス・ウィンデリング・レフン監督とライアン・ゴスリングによる哲学チックなバイオレンス映画。
まずこの映画の難解さは主要人物の動機や心情が見えず、悶々としてしまうが、そこは意味がないのかも。
様々なメタファーに思いを巡らすことで数多の解釈をすることが面白いのだから、登場人物の細かな設定や動機なんかはどうでもいいのだ。

たとえば元刑事のチャンは神的なポジションであり、本作における神というのは当然彼のことだろう。罪ある人物には彼が必ず裁きを下す。
しかし、なぜ裁きを行うかがわからないし、思わず笑ってしまうシーンである裁きを下した後のタイ歌謡曲をカラオケで歌う意味もわからない。ただ、彼は超法規的な存在で悪人に裁きを下す。
その行動原則は傷ついた人の代理として復讐を行う絶対的な存在である。
もう一方の神として主人公ジュリアン(ライアン・ゴスリング)の母クリスタルも神として絶対的な存在である。
彼女は旦那が死んでから麻薬組織を仕切っていただけあって、絶対的権力者。相手を支配、統制することが当然と思っている。
それは息子であるジュリアンにも向けられ、トラウマとなっている。
(どうやら近親相姦されていたようで、そのせいでジュリアンは去勢されている。そのせいで母親にたいして愛憎入り交じる複雑な感情を抱いているようだ)
しかし、なんでそんなことをするのかなんてのはわからないし、意味はない。そういうもんなのだ。

主人公ジュリアンは悪や暴力の連鎖の中、善悪に翻弄され、どちらの2人(チャン、ジュリアン)の神の価値観を信じるのか?そして神を信じることで罪から赦されるのか?ということがってのが大筋ですが、そこにどのような意味があるのだろうか?
正直一回観ただけではわからないので、今後も悶々とするのだろう。
個人的にはそれはすごくいいことだと思う。
傷跡として残り、時々痛み、この映画を思い出す。

しかし、監督のインタビューにこの映画のテーマは『人のいうことを聞くな』といっていたのでテーマ自体は単純なのかも。

ちなみに映像はドライブの時同様、いやそれ以上に美しい。
いい感じに酔ったような、ゆったりとした時間感覚の映像はバンコクのあらゆる場所と相性がいい(夜店の路地、赤い部屋とかキャバレーとか)
チェンを始めとしたあらゆる人物の暴力は本当に痛そうだし、フレッシュな暴力表現。ニコラス・ウィンデリング・レフン監督印だろう。

そんでノーカントリーのシガーみたいな超越したチャンを演じたヴィタヤ・パンスガム、美しく狂気を孕んだクリスタル役のクリスティン・スコット・トーマスの怪演ぶりはヤバかった!

うまくまとめられないが、いい映画だった。

cani tsuyo