「これは気のいい看守にとって、幸せなのか不幸の始まりか?」タンゴ・リブレ 君を想う マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
これは気のいい看守にとって、幸せなのか不幸の始まりか?
脚本も担当しているアリス役のアンヌ・パウリスヴィックが、スレンダーながら美しいボディーラインと相手をじっと見つめる瞳で、体全体からエネルギッシュな色気を発散する。
アリスの夫、フェルナンはアリスに負けないだけの野性的な気迫の持ち主で荒っぽく、看守の目も気にしない。その共犯者のドミニクがアリスの愛人でもあるというのが、この作品の肝。三角関係にはならず丸く収まっているのだ。
彼らに対し、皆からJ.C.と呼ばれる主人公の看守は、一時停止線を越えることもなければ見通しのいい田舎道でも赤信号をじっと待つようなマジメ男だ。しかも気が弱く、号令に従わないフェルナンに注意もまともにできない。
アリスたちとJ.C.の接点となるのがタンゴだが、タンゴがもっと話の中心にくるのかと思ったが、そうでもなかった。タンゴはあくまで話の流れをつくるキッカケに過ぎない。本流は、アリスの奔放さに吸い寄せられる男たちの行く末だ。
とはいえ、監獄の自由時間を使ってのタンゴのレクチャーは見応えがある。
本物のダンサー、アルゼンチンのマリアーノ・チチョ・フルンボリとパブロ・エルナン・テグリが踊るタンゴは、素人目にもキレがよく野性味のある振付で迫力がある。映画には関係ないが、あの脚さばきを見ていると、なるほど同国のサッカーが上手くなるはずだと感心してしまう。
おどおどしながらも、まったく違う世界に引き込まれていくJ.C.に「おいおい、だいじょうぶか?」と声を掛けたくなるが、彼にとって幸せなのか不幸の始まりなのかは曖昧で、何とも足元がおぼつかない風変わりな運びとなる。自分の感覚ではハッピー・エンド。
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