「ダニー・ボイル監督が“面白さのエキス”をじわじわと絞り出す」トランス マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
ダニー・ボイル監督が“面白さのエキス”をじわじわと絞り出す
名画の盗賊団と仲間だったはずの競売人の記憶がなくなり、絵画の在り処が分からなくなったという話だが、本筋は絵画の探索よりもなぜ仲間に絵画を渡さなかったのかという点にある。
競売人が強盗団の仲間に加わったのも謎で、この役に知的なジェームズ・マカヴォイはうってつけだ。
盗賊団のボスは、記憶を取り戻させるため競売人を催眠療法士の手に委ねる。ロザリオ・ドーソン演じる催眠療法士エリザベスが行う“催眠療法”が大きなカギとなる。
催眠術で人を自由に支配することは不可能ということを取り払い、これは映画でのお決まり、エレベーターの天井がすぐ外れるのと同じと割り切ってしまえば、なかなかに面白いミステリーものだ。
催眠によって想起される記憶はいったい過去の体験(事実)なのか、それとも誘導された思い込みなのか、主人公とともに観ているこちらも、どれが現実なのかその実態が揺らぐ。演出も上手いが、この作品、ジョン・ハリス(「キック・アス」「127時間」)による編集が巧妙だ。
二重三重に張られた罠が明らかになっていくが、最後まで真相がはっきりせず、頭をフル回転させられたのは久しぶり。
これで彼女の最後の打ち明け話さえも作り話だったらゾッとする。
音楽のリック・スミスはお初だが、スリリングさを織り込みながらも美しい旋律で、作品の品格を押し上げた。
盗賊団のリーダーを演じたヴァンサン・カッセル。最初はただの悪党面だったが、終盤では中々の色男に見えてくる。
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