百瀬、こっちを向いて。 : インタビュー
「女優」という道を選んだ早見あかりの決断
少女は決断する。「ももいろクローバー」を脱退すること。大学には進学しないこと。そして、女優として生きること。早見あかりは常に、自らに向き合い、問いかけ、考え抜いて進むべき道を切り拓いてきた。こうしたいくつもの決断の末に、彼女が「ようやくスタートラインに立てた」と語る初主演映画「百瀬、こっちを向いて。」が公開する。(取材・文・写真/黒豆直樹)
「良くも悪くも人一倍、考えてしまう性格だし、白黒ハッキリつけたがるんですよ(笑)」――。なぜ、そこまで決断できるのか? と尋ねたときの彼女の答えである。彼女が望めば芸能活動と並行して進学することも不可能ではなかったはず。そう、彼女は外部から選択を迫られて“どちらか”を選んでいるのではなく、常に自らの内側からわき上がってきた疑問や問いかけに答える形で決断しているのだ。
だが「女優」という道を選んだのも決して確固たる思いや決定的な啓示があったからではない。ましてや自信もなかった。「実際、その時点で女優としてたくさんお仕事をいただいていたわけではないので(苦笑)。『こういう理由で』というハッキリしたものでもないんですよ、実は。純粋に演じることがすごく楽しくて好きだったんです。アイドルには向いてないと思った時、もっと違う表現で伝えられることがあるんじゃないか? と思ったんです。それが女優だったんだと思います」。
脱退から3年、初主演映画として公開される本作は人気作家・乙一が中田永一名義で発表した青春小説が原作。早見は天真爛漫さと脆さが同居する少女・百瀬を演じている。彼女が想いを寄せる先輩・瞬(工藤阿須加)には本命の恋人・徹子(石橋杏奈)がいるが、瞬と百瀬の関係が校内でうわさとなったため、徹子の疑いを晴らすために、彼女は瞬の後輩であるノボル(竹内太郎)と付き合っているフリをすることになる。
クランクインを前に早見と竹内は異例とも言える約1か月もの長期にわたるリハーサルに臨み、耶雲哉治監督と共に役や2人の関係性を作り上げていった。
「監督に最初からずっと言われてきたのは、百瀬は『ノラ猫みたいな女の子』ということ。そこはぶれずに持ち続けました。あとは台本に沿って稽古を積み重ねていき、考えるというよりは、繰り返すことで百瀬という役柄を染み込ませていく作業でした。『百瀬になった』と感じたのは、髪の毛を切った時かな? 撮影開始の1週間前に、役に合わせて切ったんです。その頃にはリハーサルも終盤で、自分の中で作り上げていたものは既にあったんですが、長い髪をバッサリと切った瞬間に『あ、百瀬だ』って感じましたね」。
報われない恋と理解しつつも、少しでも瞬のそばにいたいがため、ノボルと付き合っているフリをすることを自ら提案する百瀬。どこか謎めいていて、奔放にノボルを振り回し、時折、心の奥の切ない想いをのぞかせる。そしてクライマックス。それまで順不同で進められてきた撮影が、このシーンは一番最後に、そして唯一、事前にリハーサルをしないまま行われた。
「百瀬がノボルの前で気丈にふるまう場面があるんですが、監督には『あかりん(=早見)は、悲しいシーンを悲しく演じすぎる』って言われました。『それじゃ百瀬じゃない』って(苦笑)。切なさや悲しみを前面に押し出すのではなく、隠そうとするけど、にじみ出ちゃうからノボルが感じ取るんだと。そこは難しかったですね。その後の、感情を思い切り外に吐き出すシーンは正直、考えて演じたというよりも何も考えられないくらい一生懸命で、頭ではなくそのときの感情そのままでやってました」。
演じながら百瀬に対して、様々な思いを抱いた。恋愛観に関しては「理解できない(笑)」。だからこそ、演じる楽しさを改めて感じたとも。
「最初は百瀬は早見あかりに似ているって思ったんです(笑)。でもリハーサルや撮影で掘り下げていく過程で『いや、違うんじゃないか』と感じるようになりました。すごく女の子らしくて、強いけど複雑なコなんだなって徐々に分かってきましたね。切ないし、頑張り過ぎてるんですよ。ただ、演じてる最中にどんなことを感じてたかっていうのはあまり覚えてないんです。でも、本当に百瀬になりきってなくちゃ、演じきれなかっただろうと思います。なのに完成した映画を見ると、やっぱり彼女の恋愛観は共感できない(苦笑)。だからカメラが回った瞬間に百瀬になるスイッチが入ってたんでしょうね。それはすごく楽しいことですね」。
見る人が、女優としての自分ではなく、演じているキャラクターそのものから目が離せなくなるような存在になることが望みだという。「『早見あかりがこの役をやっている』ではなく、『この役、ステキ!』とか『この女、ホントにムカつく! キライ!』と思って確認したら、演じていたのは早見あかりだった――そんな女優になりたいです。それから、同性に『カッコいい』と思ってもらえるようになりたいですね。私自身は、かっこいい男の子には興味はなくて、かわいらしい女の子が大好き(笑)。でも、自分がなりたいと憧れるのはカッコいい女性なんです!」。
決断してきたことに後悔は? そんな愚問に笑顔で首を振る。「いろんな人の意見は聞くけど、決めたのは自分だから」。なぜ、早見あかりは女優として生きていくことを決めたのか? 答えはきっと、この作品の中にある。