R100 : インタビュー
松本人志×大森南朋、禁断のワンダーランド「R100」で繰り広げた大冒険
松本人志監督の4作目となる長編映画「R100」が完成した。主人公が謎のクラブに入会し、めくるめく不思議な体験をする本作。今年5月に行われた製作発表会見では「どんな映画? いや、何と説明したらいいのか……」と言葉を詰まらせた松本監督だが、完成した本編は確かにひと言で語れない“松本イズム”が貫かれた野心作となった。新たな領域へと足を踏み入れた松本監督、そしてその映画的冒険の主人公を担った俳優・大森南朋が禁断のワンダーランド「R100」を語る。(取材・文/内田涼、写真/本城典子)
映画という概念を破壊したい……。そんな決意を胸にデビュー作「大日本人」(2007)を生み出した後、「しんぼる」(09)、「さや侍」(11)とフィルモグラフィーを重ねた松本監督にとって、「R100」は映画との向き合い方に、自然と変化が生じた作品のようだ。「今も破壊したいっていう気持ちは変わらないんですよ。ただ、いい意味で力が抜けてきましたね。逆に言えば、どこに力を入れたらいいかわかってきた気がする」。さらに「自分の目指す方向がだいぶ見えた感覚ですね。僕にとって『R100』は灯台のように、今後の映画作りを照らしてくれそうな存在になりました」とこれまでにない達成感だという。
映画は謎のクラブ「ボンデージ」に入会したサラリーマンの片山が、時と場所を選ばず派遣される個性豊かな“女王様”たちとのプレイに快楽を覚えつつ、そのエスカレートぶりに恐れと怒りを募らせ、ついに反旗を翻す姿を描いた。なぜ、片山は禁断の扉を開いたのか。松本監督は大森をはじめ、著名な俳優を多数起用するという新たな扉を開くことを選んだ。
「いわゆる芸能界という場所では、僕もベテランだし、楽しようと思えば、いくらでも楽できちゃう。ただ、自分にとってしんどいことや勉強もしないと、先に進めない。後輩や知り合いとばかり仕事をしていると緊張感がなくなり、いい映画が撮れませんから」。
そんな現状に甘んじない松本監督の姿勢に、“ドM”な主人公・片山を演じる大森も深い共感を示す。「ありがたいことにキャリアを重ねると、ある程度、自分で仕事を選べるようになります。よくも悪くもイメージというものが固まって、そのなかで仕事をやり続けることも可能だと思うんです。だからといって『Mの役だからやらない』というのは、俳優としてどうなのかなという……。しかも松本監督の作品ですよ。映画そのものが松本監督の頭の中という感じですし、これはもう飛び込んで、挑戦しないと」。
今や日本映画界に欠かせない存在となった実力派俳優の大森が、黒のボンデージに身を包んだ“ドS”な大地真央、寺島しのぶ、冨永愛、佐藤江梨子らから、想像を絶する屈辱を味わうことに。しかも、屈辱の先にある快楽をも体現しなければならない。「もともと松本さんの大ファンでしたから、お声をかけていただき、うれしかったですし、楽しみでしたね。同時に台本を読むと『一体、何が起こるんだろう?』と若干の恐怖も(笑)。でも結局、現場に行かないと何もわからないですし、そこで広がる何かが必ずあるだろうと。実際に現場はいい緊張感があり、居心地もすごくいい」。作品が完成した今は「僕にとっては40代の始まりでもあるんで、ご覧になる皆さんに衝撃を与えられる作品になったのは確か。本当に監督のおかげです」と誇らしげに語る。
松本監督も大森の起用には大満足だといい「そもそもコメディは目指していないんで、そうなるとプロの俳優さんでないと。大森さんは何ていうか、コメディ色が弱いというか。結局、数えきれないほどイヤなことを、やらせてしまいましたけどね(笑)。共演者の皆さんもほとんどNGがなくて、ストレスも感じなかった。まあ、前作がね……」と素人俳優を主演させた「さや侍」を引き合いに、「R100」を華やかに盛り立てた俳優陣に最敬礼だ。
劇中にはベートーベン作の交響曲第9番第4楽章、いわゆる「歓喜の歌」が随所に挿入されており、主人公・片山が体感する文字通りの“歓喜”を強く印象づけている。それでは松本監督にとって、映画作りはどんな歓喜をもたらしてくれるのか。「それはね……、難しい問題なんですよ」と思案顔。「確かに撮影中、狙った以上のシーンが撮れると、それは純粋に喜びを感じるものなんです。ただ、もっと大きな意味の喜びとなると……。例えば、何年後かに自分の映画を見直して『やっぱり普遍的なものだった』と思えるなら、それはきっとうれしいでしょうね」。
作品を発表するたび、賛否両論が巻き起こるのも松本作品の常だ。「いい評価は素直にうれしいですけど、『もしかして単におれのファンなんじゃないか』って疑りたくなるし、その逆もあるでしょ。ダウンタウン松本っていう先入観があるから、日本での評価を判断するのは難しいんですよ。だから、海外での反応のほうが、よりストレートに受け取れますね」。
9月5~15日(現地時間)にカナダで開催されたトロント国際映画祭ミッドナイト・マッドネス部門に正式出品され、ふたりも現地入り。「正直、すっごい受けましたね」(松本監督)、「生々しい反応を体験できました。右後ろに座るおばさんが『オーマイガッ…』とうるさくて(笑)」(大森)。現地で行われた海外配給権のセールスでは、約20カ国からオファーが殺到し、2014年の全米公開も決定したばかり。松本監督が「4本目ってことは、映画監督としては新人に毛が生えたところ。その割には頑張っているかな」と胸を張れば、大森は「僕は“Mの男”として全米に名をとどろかせたい」と意欲満々。ふたりの「R100」をめぐる大冒険はまだ終わらない。