劇場公開日 2013年7月12日

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偽りの人生 : 映画評論・批評

2013年7月9日更新

2013年7月12日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

オラシオ・キローガの世界に触発された犯罪ドラマ

ブエノスアイレスで美しい妻と優雅な生活を送る医師アグスティンのもとへ故郷のデルタ地帯ティグレから一卵性双生児の兄ペドロが訪れ、末期癌に蝕まれた自分を殺してくれと懇願する。困惑しながらも、アグスティンはペドロを殺害し、新たな人生を生き直すべく、ペドロになりすまし、ティグレへ帰郷する。そこでアグスティンはペドロが手を染めていたおぞましき犯罪に巻き込まれていく。

このあまりにロマネスクな趣向は、女流監督アナ・ピターバーグのオリジナル脚本だというが、浴室でペドロが死の直前に読みふけっていた(彼の故郷の家の本棚にも置かれている)オラシオ・キローガの「故郷喪失者」が作品を解読するキーワードだろう。

ラテンアメリカ随一の短篇の名手で魔術的リアリズムの先駆者と呼ばれたキローガは、都市と密林、悪夢と死の妄執に憑りつかれた、ポーの衣鉢を継ぐ幻想小説の作家である。映画には、歳の離れた若い娘へのオブセッションや突発的な暴力、養蜂家のメタファーなどキローガの短篇に触発されたと思しきイメージが頻出する。

一人二役のビゴ・モーテンセンは一見、成功の絶頂にあるはずのアグスティンの内面に巣食う空虚さ、宿痾(しゅくあ)の正体が止みがたい故郷喪失感であることをさりげなく表現して見事である。彼がペドロと対峙する場面もまるで合わせ鏡の半面、呪われたドッペルゲンガーと向き合っているような寄る辺なさを感じさせるのだ。

アグスティンがあたかも冥界をさまようかのように密林の間を流れる河をボートに乗って幾度も遡行(そこう)するシーンが深く印象に残る。

高崎俊夫

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