「凶犬一家に御用心」マラヴィータ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
凶犬一家に御用心
『グラン・ブルー』は好きだしヨーロッパのエンタメ映画を牽引する大御所
だとは思うが、僕はリュック・ベッソン自身がメガホンを取ったエンタメ映画を
『レオン』以外面白いと思った試しがない。なのでデ・ニーロを始めとした
豪華キャスト以外にはほとんど期待していなかったのだが……
あら、驚いた。面白いじゃん!
本当にあのヌルくて眠い冒険活劇『アデル』を撮った方なのか
(ファンの方ゴメンナサイ)と疑いたくなるテンポの良さ。
笑えるシーンは多いし、ギャグもしつこくないし、ほんの少しだけ泣けるし、
ほんの少しだけバイオレント。
終盤のアクションもアッサリめではあるが、ほどよく緊張感があって面白い。
そして期待通り、キャストも魅力的だ。
* * *
『アナライズ・ミー』と同様、デ・ニーロのコワモテなキャリアを
逆手に取った笑いが利いている。
バットを握ってアル・カポネに言及するシーンや
『俺がいいヤツである理由ベスト10』には思わず吹き出した。
アメリカ映画の上映会のシーンで上映される映画にはもう笑うしかないっす。
いやいや、よりにもよってその映画かよ(笑)。
(制作として参加しているあの人への目配せかしらん)
輝けるマフィア時代を描いた回想シーンも、
ここのところ今一つパッとしないデ・ニーロが
昔の精彩をちょっぴり取り戻したようでニンマリ。
お父さんがちょっとしたことですぐブチキレる凶犬だからか、
妻も息子も娘もみんな、見た目に反してキレた時がアブな過ぎる。
料理上手で明るい奥さんはナメられるとすぐ放火するし、
かわいい長女は相手が男でも半殺しにしちゃう肉食系というか猛獣だし、
軟弱そうな次男は情報収集と人心掌握術でマフィアの遺伝子バリバリ継いでおる。
ついでに可愛い飼い犬もキレると恐ろし。
特に長女は数学教師にときめいたり、
最後のアクションでも強さより華奢さを際立たせていたりと、
ヒロインを魅力的に描くという点では流石ベッソン監督といった感じだ。
* * *
まあ不満点も少々。
基本は元マフィア一家のおかしな生活を描いた映画ではあるので
強固なストーリーはあまり必要ないと思うのだけど、
話の決着点が見えづらいので少しばかり散漫な印象がある。
また、デ・ニーロとT・L・ジョーンズにもう少し見せ場が欲しかったかな。
二人の存在感が他のキャラクターに埋もれ気味だったので、
渋いオッサン俳優の共演を楽しみにしてた自分としてはちょいと食い足りない。
あと欲を言えば、クライマックス後に一家のその後とかをチョロッとでも
見せて欲しかったかなあ。数学教師の件とか中途半端なままだし。
* * *
ま、不満の大部分は『このキャラクター達をもっと観ていたい』
という気持ちの裏返しでもある訳なので、後ろ向きな不満点ではない。
というわけで、魅力的でアブないキャラクターが楽しく、ちょっぴり
ブラックなサスペンスコメディでした。バッチリ楽しめる出来でしたよ。
なんだかんだでベッソン監督のエンタメ映画の中では
『レオン』の次くらいに楽しめたかも。
〈2013.11.16鑑賞〉