「素材を活かせなかった」蜩ノ記 えのきちさんの映画レビュー(感想・評価)
素材を活かせなかった
『蜩ノ記』を鑑賞。
直木賞受賞作である同名小説の映画化。
戸田秋谷(役所広司)はある罪を犯し、10年後の夏に切腹する事、またそれまでの間、藩の歴史とも言える家譜の作成を言い渡された。
それから7年、檀野庄三郎(岡田准一)は家老より戸田の切腹を見届ける命を受ける。
そこで庄三郎は戸田の生き方に感服し、切腹の命が下るに至った真実を知ろうと調査を始める。
静かな佇まいに、慎ましやかな生活。
物語は序盤から美しい景色とともに静かに且つゆっくりと展開していく。これは良さげな雰囲気と期待感は高まったが、残念ながら少々高め過ぎてしまったようだ。
ゆっくり静かな展開は中盤を過ぎても続き、少々退屈気味な展開。そして、「ゆっくり」=「丁寧」かと言えばそうではなく、のんびりしている割に全体的に説明不足で原作未読の身としては、理解が困難なシーンも多い。
加えてあまりにも美しく撮ろうとし過ぎている点も気になる。明らかにやり過ぎ。
途中言われなき罪に問われ激しい取り調べによる拷問で命を落とす少年がいるのだが、身体にこそ痣が残るものの顔は綺麗なものである。そんな馬鹿な。悲惨さを描く数少ないシーンでも画面は決して汚さない。それでは観客も感情移入どころかしらけてしまう。
美しい画と、美しい愛情溢れる物語、そして申し分のない俳優陣の演技。
これだけの素材を揃えていながらこの完成度では残念と言わざるを得ない。
かなり辛めな事を書いているが決して駄作というわけではない。
凡作となってしまった事がただただ残念に思える作品なのである。
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