「史上最高のF1映画」ラッシュ プライドと友情 臥龍さんの映画レビュー(感想・評価)
史上最高のF1映画
20年来のF1好きで、これまでいくつかF1映画も見てきたが、正直どれもパッとしなかった。
しかし、これはF1好きだけでなく、純粋にヒューマンドラマとして面白く、秀逸な作品と評価できる。2人の天才ドライバーが織り成す人間ドラマ。実話とは思えないドラマの数々。迫力あるレースシーン。素晴らしい作品に仕上がっていた。
ニキ・ラウダはF1に人生のすべてを捧げるストイックな性格で、超がつくほど真面目。学者肌で物事をとことん理詰めで考え、マシンへの理解力が高く、高いセッティング能力とマシン開発能力を併せ持つ。非常に知的で自信家。揺るぎない信念と強固な意志、芯の強さを併せ持つ。しかし、その性格と才能が故に周囲を見下し、軋轢を生み、人望もなく常に孤独。
対するジェームズ・ハントはひと言でいえば天才肌。性格は破天荒で社交的。人を楽しませるのが好きで、周囲の人望もある。女遊びが趣味で、オフはパーティに入り浸り。喫煙者で酒豪というスポーツマンらしからぬ私生活。しかし、いざマシンに乗りこむと、本能と感覚でマシンを操り、ずば抜けた速さを発揮する、まさに天才。しかし、人間としては非常に脆く、心が弱い。レース前の重圧で吐くこともしばしば。彼の私生活が派手なのも、レーサーなんて明日死んでもおかしくない。だったら、いまを思いっきり楽しもうぜ、という心理の裏返しでもある。
ここまでなにもかも対照的な天才2人が、同じ時代に存在し、F1の下のカテゴリーであるF3からライバルとして凌ぎを削ってきた。性格の違いから反目しつつも、お互いをライバルとしてその実力を認め合う。
その描き方、ストーリーへの乗せ方が秀逸で見ていてまったく飽きない。F1ならではのレースシーンも、しっかり迫力が伝わってきた。
F1のエンジン音の迫力は、テレビで観てる分にはまったく伝わってこないものだが、映画では迫力があった。
映像も、過去の実際のレースシーンを交えながらも、古臭さはそれほど感じない。カメラワークがよく、映像も再現性を保ちつつ、映画ならではの迫力ある映像が撮れていた。
特に秀逸だったのがヘビーウェットの最終戦日本GP。ウェットレースのドライバーの視界がどれほど劣悪で、そんな中レースをすることが、どれほど困難か。常人にはとても真似できないものである、ということが分かる映像だった。しかし、これはフィクションではなく、F1ドライバーとは実際このような視界で運転している。F1ファンとしては、それが分かるだけでも、この映画を見る価値があったと思う。もちろんF1にも車載カメラはあるが、映像として成立させるために、水滴がしっかり落とされたもので、ドライバーの視界がどんなものかは分からない。自分も長年F1を見ているが『こんなに見えないものなのか』と驚かされた。
そして、ニュルブルクリンクの事故。ラウダは400度の熱風に1分間晒され、肺の中まで火傷を追う。顔はそれが誰だか分からないほど焼け垂だれ、誰の目にも再起不能に思えた。
治療は見るに耐えないほど過酷で、金属の太く長いパイプを口から肺まで突っ込み、肺に溜まった膿を吸い出す。焼け垂だれた皮膚に貼られたガーゼを剥がし、体の皮膚を顔に移植する。麻酔もない。
しかし、彼は悲鳴を上げながらヘルメットを被り、事故からたった42日でレースに復帰する。結果は見事4位完走。これがフィクションだったら、よくある展開だろう。しかし、これは紛れもない実話。それが余計に感動を呼び起こす。
ニキ・ラウダの不屈の精神に敬服し、2人の天才が織り成すライバル関係に心打たれた。
F1に興味ない方にとってはどうか分からないが、少なくともF1ファンは絶対に観ておくべき映画だと思う。
そして最後に、余計なのは承知で…
現代のF1に足りないのは、この人間味や個性だと思う。
至るところにドライバーエイド(運転を補助するような装置)がつけられ、センサーに管理された現代のF1。それがF1の進化の仕方だと言われればそうだが、やはりこの映画のような人間味も残して欲しい。もう少し機械に頼らないF1であって欲しいと思う。
自分が思って伝えたいことがすべて書いてありました。みごとです。
あと付け加えて言うならば、レース中どちらが映っているかは、
ヘルメットや車のボディにしっかりと名前が書いてあったの
わかり易すぎました(笑)