「映画女優と云う名の寓話」グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札 全竜(3代目)さんの映画レビュー(感想・評価)
映画女優と云う名の寓話
ハリウッドの頂点を飾る看板女優から、モナコの大公妃へと鮮烈なる転身を遂げた伝説の美女グレース・ケリー。
結婚後、未だに己の立場に戸惑う最中、厳しい関税を課すフランスの圧力により存亡の危機に陥ったモナコを守るべく、奮起する伝記映画。
グレース・ケリーってぇっと、『裏窓』『ダイヤルMを廻せ!』etc. で銀幕を飾った美貌と、衝撃を与えた交通事故死は認識しているが、その間の王室での活動は現在もベールに包まれているので、興味深く劇場へ向かった。
ヒッチコック監督自ら単身で次回作の主演をオファーしたり(しかも、作品がよりにもよって『マーニー』)、
信頼していた身内を巻き込んだヒッチコック顔負けのスパイ合戦(モナコ側は劇中の内容を否定し抗議)
etc. etc.
史実にどこまで忠実なのかは疑わしいが、窮屈な皇室との軋轢に辟易し、女優復帰や離婚に心が大きく揺らいでいた点はノンフィクションの様である。
答えの無い葛藤の果てに、女優として公妃として大舞台に挙がるプリンセスの一代記と割り切ると、極めて面白いお伽噺だった。
自分のプライドや誇りを外交の為に捧ぐ姿勢は、女優魂うんぬんを超越したカリスマ性を感じさせる。
しかし、その神秘の裏にどれだけの苦悩と努力が必要不可欠だったのかを思い知らされると、自分とは無縁とは云え、本物の天才と美について考えてしまう。
そして、私なりに到達した結論は、『どんなに美しく咲き誇る華も、一輪挿しでは成り立たない』という点に尽きるのではないだろうか。
彼女を愛したモナコ大公は勿論、いつも相談に乗り的確なアドバイスを与えた神父、毒舌が玉に傷の友人オナシスetc. etc.
海運王オナシスが名を連ねていると云う事は、必然的にマリア・カラスの存在感も光るってぇワケでして。
非常に重要な場面で、女神の歌声と、女神の演技が輝き、戦争寸前の緊迫の場から、歴史の1ページを塗り替えた息吹に、男どもはただただ溜め息を漏らすばかりである。
大きな支えを得たからこそ、銀幕仕込みの華は遺憾無く咲き誇れたのだ。
誰をも惹き付ける魅力と、非業の死を遂げた孤高のプリンセスと云う点でどうしても英国のダイアナ妃とを重ね合わせてしまうのだが、今作を語る上で二人の大きな違いは、離婚したか否かである。
この後、ナオミ・ワッツの『ダイアナ』を観ながら、時代に翻弄された姫の波乱な人生の分岐点を見届けるのも、一介の映画好きな平民にとって、粋な秋の宵なのかもしれない。
要するに、世界平和の鍵はいつも女性が握っているってぇ事なのだ。
それに引き換え、日本なんざぁ、団扇しかり、観劇ツアーしかり、スケールの小さい罵り合いにただただ呆れる。
国の運命を背負っている自覚が有るのかすら解らない。
こんなんばっかしやから、いつまで経っても日本は馬鹿にされてんだ!
在りし日の大島渚監督みたいに憤りながら最後に短歌を一首
『揺らぐ海 蒼さに嘆く 銀の華 煌めき捧ぐ 蕀(イバラ)の舞台』
by全竜