「人間とは、考えてみた」鑑定士と顔のない依頼人 未佐緒00さんの映画レビュー(感想・評価)
人間とは、考えてみた
観る前から内容やオチは知っていたのですが、とても考えさせられました。主人公、ヴァージルの最後は自業自得だという人、意見も数多くありますが、本人が不幸だとは単純には思えませんでした。
まず、友人のビリーですが、彼には本当に絵の才能があったのか、いや、なかったのかと疑問に思います。
ヴァージルは鑑定士としては一流です、そんな彼が対等ではない関係の上で友人として繋がっていても、認めることはプライドが許さなかったのではないかと思うのです。
芸術、絵描きに対しての侮辱ではと考えたら頷けます。
ビリー自身にしても他の人間が認めても、彼が認めてくれなかったら意味がないのではないのかもしれません。
若い技師のロバートもです。
金の為ではないと言いながらオートマタを組み立てているときは本当に楽しそうでした、ヴァージルの恋の相談にアドバイスをする、若い友人達とでは共有できない濃密な時間だったと思います。
そして、クレア、偽りであったとしても彼がプレゼントしてくれた花やドレス、化粧品は本物です、愛したという事実も。
彼女の職業が物書きなら、彼と過ごした偽りの時間を小説の中で、かくも真実のように書いて懐かしがっているのではないか。
そんな想像をしてしまうほどです。
ヴァージルは善人ではなく愚かな人間だといえばそれまでですが、そんな彼を欺き騙した彼ら自身も愚かな人間です。
懐かしくなって、共有した時間を思い出し、もう一度会いたいと思っても、二度と姿を現す事はできません。
ときに、自分達のやったことを後悔するとしてもです。
コレクションの絵を手に入れたビリー。
でも、本物の絵に囲まれても彼自身が満たされる事はないと思います、自分には絵の才能はないのだと思い知らされるだけだとしたら、あまりにも酷です。
でも、そそれがわかっていて、このペテンを仕組んだのだとしたらどうでしょうか。
多分、そのときはただ夢中で、ただ、ヴァージルを見返したい為だけ、自分のプライドの為だとしても。
この点だけ、絵描きとしてのプライドというなら納得できる気もします。
技師のロバートは、本心からそうしたかったのか、騙している間、わずかながらも呵責は感じなかったのか。
クレア、最初から欺いていたとしても、本気で好きになってしまったなら、それを告白すれば幸せになれたかもしれません。
人を騙し犯罪者になったという事実が残るだけです。
見終わった後、そんな事を考え、映画とは違うラストの原作も読んでみたいと思いました。