「夜も昼も」鑑定士と顔のない依頼人 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
夜も昼も
これ、世間的にはドンデン返しの映画だという事を知り、ちょっとビックリ。
だって初っぱなから、おじいさんが謎の女に鼻毛抜かれまくりの話だったからなあ。
あと最初からドナルドが「何かやったるでオーラ」を出しまくっており、展開が読めるよう作ってあると思ったんだがなあ。(つうか、彼がキャスティングされてる時点で怪しさ満載。)
展開が読めるからツマラナイと言う訳では勿論なく、終点は何時来るんだ?という面白さがあった。
そして、これ世間的にはおじいさん可哀想、後味悪いっていう映画なんだね。まあ、感想は人ぞれぞれだからなあ。確かに可哀想な一面もある。
でも、冒頭でのおじいさんの哀れさ…秘密の部屋で美女絵画に囲まれて一人ウットリよりも、数段明るいラストじゃないの?とも思うんだが。個人的には『恋愛小説家』の荒療治版な感じだった。
人と触れ合うことを恐れ自分一人の世界に閉じこもっていた主人公。
人と触れ合えばそこに当然軋轢も生じる、傷つくこともある、だから彼は人間を避けてきたのだと思う。閉じこもったままであれば傷つかなかったのかもしれないが、そのままで本当に良かったのか…?
彼が、傷つくことを恐れずに自己の世界から飛び出して人との繋がりを求めたラストは苦いだけではないと思う。その「変化」がこの映画の胆なのかなとも思う。私自身が傷つくくらいなら別に変わらなくていいやと思ってしまう方だから、余計にその部分に反応したのかもしれない。
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ラストシーン、おじいさんは来るか来ないか分からない女を待っている。
「ナイト&デイ」という名前のレストランで。そのお店は、ゼンマイや時計がたくさん飾ってあってちょっと不思議な雰囲気だった。
日本でも有名な『夜も昼も』という歌を思い出した。
「時計の針が時を刻むように、私の心もあなたへの思いを刻み続ける」っていう甘いラブソング。
もしおじいさんが「純情なオレ、超かわいそう」と思ったままのラストだったら、本当に悲しくなるし怒りたくもなる。でも彼が、自己保身や自己憐憫や損得や見栄を振り切った彼岸の境地にいるのは、なかなか羨ましい限りだった。それでいて熱く胸を焦がしているなんて最高じゃない?
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追記:『夜も昼も』はいろんな人が歌っているがジンジャー&アステアの優しい感じが一番好きだ。