劇場公開日 2014年6月14日

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「悪夢的快楽スペクタクル」私の男 ONIさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0悪夢的快楽スペクタクル

2014年6月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

萌える

原作の息の根止めてこそ、映画。そんなことを山中貞雄が80年も前に言っている。
原作最大の特徴の時間である時間の遡りという技法は原作にもヒントを与えたイ・チャンドン「ペパーミントキャンディ」だけでなくもっと前にはジェーン・カンピオン「ルイーズとケリー」など、いま映画でそれをやられても、それ自体驚くものでない。むしろ原作を読んだとき、映画としてのエモーションのかかりづらさをどうするのかと思ったら、こうきたか、というその大胆な取捨選択に驚く。まさに息の根止めて、再構築。

ということで、その最大の魅力、北の果ての田舎町、流氷、血、疑似親子、男と女、という映画的モチーフを再構築して徹底化した。
凡庸な小説家なら怒り狂うかもしれないが、さすが映画マニアの桜庭一樹はそれを当然のように受け入れる。その関係もいい。

さらに、時折はさまるフラッシュフォワード、映画は時系列に進んでいるように見えて、実はラストシーンの銀座まで、全部が過去回想で、ラストシーンが現在、という構成にも見え、反芻すると、とんでもないアクロバットをみた感じ。

ストーリーではなく、風景と男と女を描き出すために練られた構成。
見世物としての映画をここまで極めた邦画は本当に貴重だ。

ONI