劇場公開日 2013年7月6日

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「もがくことを隠してきた25年」25年目の弦楽四重奏 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5もがくことを隠してきた25年

2013年7月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

知的

音楽には詳しくないが、メインとなる《弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調》作品131はベートーヴェンが亡くなる半年前の作品で、全7楽章を“アタッカ”で、つまり途切れることなく演奏する難曲だということが、4人の演奏者たちの台詞から推察できる。

かといって、硬くて難しい内容の作品ではない。
“アタッカ”は演奏の途中で楽器のチューニングができないため、狂っていく音色の中で互いに調和を探し続けて行かなければならない。
それは、歩み始めたら後戻りできず、思い通りにならないながらも最善の方法を模索する人生そのものに重なる。割に分かりやすい話なのだ。それに、溜め込んでいた本音を曝け出していくメンバーが俗人的で面白い。

見どころは4人の俳優だ。
クリストファー・ウォーケンが奏者としての引き際を決断する苦悩と、25年続いた楽団の火が絶えてしまうことへの危惧を、年長者として、また去る者として黙って見守るしかない侘しさをとつとつと語る。

フィリップ・シーモア・ホフマンは、抑えていた感情を爆発させるのはお手の物。個人的な感情から始まり、楽団を空中分解寸前まで追い込むメンタルな表現はさすがだ。

マーク・イヴァニールとキャサリン・キーナーも上手いが、あまり書くと筋書きが分かってしまうので触れないでおく。
4人が4人とも悪役ができる俳優でカルテットを組ませたのは面白い。

4人が築いてきたものが、どれほど繊細なものだったか、残されたメンバー3人は気づいていない。それは楽団のサウンドばかりでなく、人間関係もしかり。そのことが分かっているのは年長のピーターだけだ。
オープニング、注意書きがびっしり書かれた楽譜が登場する。まるで設計図のようだ。だが、設計図の通りには行かないのが人生。
生身の人間のもがきを隠さずさらけ出したとき、人は互いに寄り添い、新たなサウンドを生み出す。

マスター@だんだん