「まだ長編映画を撮るレベルではない」サンブンノイチ CRAFT BOXさんの映画レビュー(感想・評価)
まだ長編映画を撮るレベルではない
3人の銀行強盗が、奪った金をどうやって分け合うかという大テーマから展開するクライムムービー。古くは『スティング』や、90年代なら『レザボア・ドッグス』のように(確実に影響はされているだろう)、騙し騙されというどんでん返しを繰り返し、最後に笑うのは誰か……的な展開を2時間ぶっとうしで続けていく。
お笑いタレントの品川ヒロシにとって、3本目の長編映画。
品川ヒロシの監督作品は、『ドロップ』に続いて2本目の観賞だが、確かに成長の後は見られた。
『ドロップ』では素人レベルだったところから、現在は『世にも奇妙な物語』のようにショートムービーを撮らせれば、おそらくそれなりに面白い作品を作れるだけのレベルには達している。しかし、長編映画となれば話は別で、いまでも脚本や監督としては、長編映画を撮るレベルに達していない。
何よりも、これだけどんでん返しを繰り返してしまうと、途中から観客は騙されなくなる。
中盤にいかにも「敵キャラ」に相応しい役づくりで窪塚洋介や池畑慎之介が出てくるのだが、序盤で中島美嘉と藤原竜也にモノローグを担当させていたため、本作のなかで主人公である中嶋・藤原側の立場と、窪塚・池端側の「敵キャラ」に差異をつけている。そんな敵キャラが何度どんでん返しをしたところで、「あぁ、この次には、主人公がまた逆転する展開が来る訳ね」と分かってしまう。
それを何度も何度も繰り返すので、途中からすっかり飽きてしまう。ジェットコースタームービーが撮りたかったようだが、観客としては、ジェッドコースターに乗ってたつもりが、いつまでもぐるぐる回るコーヒーカップに乗せられていたという印象だ。
しかも、『スティング』にしても『レザボア』にしても、最後はある種の痛快さを残すからこそ、その余韻を楽しめる訳だが、本作は、〜監督の狙いなんだろうが〜主人公が中途半端な状態に晒されて終わる。だから余韻に、痛快さもハッピーさもバッドエンドの陰鬱さもない。
どんでん返しを繰り返し過ぎて、かえってシラケさせてしまうのも、ラストシーンが狙い過ぎて上滑りしているのも、どちらも長編映画の脚本を書く腕が、まだないためだ。
確実に成長しているのは確認できたが、立場的に映画を初歩段階から勉強するのは難しいだろう。まぁ、所属する吉本興業が映画づくりに金をかけている間に、もうちょっと現場を踏んだり、本数をこなして勉強するしかない。
ただ、『ドロップ』も本作も、それなりに成立している事は、却って不幸かもしえない。たぶん品川ヒロシというのはとても器用なんだろうけど、今のままでは将来に期待できない。何よりも、これまで2本を見る限り、「品川ヒロシらしさ」が見えない。
映画を作りたいという思いはあるんだろうが、どんな作品を作りたいのか見えて来ない。
どんな作品から影響を受けその手法を模倣しようと構わないのだが、そうやって先人たちから受け継いだものを、如何に自分のオリジナリティの中で活かしていくかって事が重要で、これは脚本家なり監督なりの作家性の問題だ。品川ヒロシには、まだその作家性が見えない。
映画づくりの勉強と、自分が撮りたい作家性の追求。普通なら学生か若い時代に身に付けるものを、40過ぎて身につけるのも大変だろう。正直言って、あまり期待できそうもない。