「音楽はお膳立て。」武士の献立 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽はお膳立て。
加賀藩に実在した"包丁侍"舟木伝内親子をモチーフに、
背景に有名な加賀騒動を加えて描いた笑いと感動の物語。
監督は釣りバカシリーズの朝原雄三とあって、構成が巧い。
遺されたレシピ集を元にこの物語を描いたそうだが、
時代物というより現代家族に通じる結婚・後継者問題などが
描かれてとても興味深い。
年上女房に年下夫、やる気のない男性と気が強く賢い女性、
あぁ実に現代的(爆)
冒頭で料理の腕を伝内に見染められ、舟木家の次男・安信に
嫁いだ春だったが、この安信という男が本当にいただけない。
こんな男に(しかも二度目の春さん)嫁ぐとは、春も可哀想に…
なんて思っていたのだが、後に舟木家・後継者問題の真実が
語られた時、まぁ~確かに気に入らない仕事にふてくされて
いるのはどうかと思いながらも、兄の死で剣の道が閉ざされ、
縁談すら諦めざるを得なくなった安信の苦悩が伝わってきた。
あの「英国王のスピーチ」と同じような突然の災難(失礼)に
渋々ながら嫌でも従わなければならない、そういうお家の物語
なのである。春が仕えたお貞の方も同じような道ならぬ運命で、
好きな人と添えぬ人生の辛さを春が体感させられるのである。
(春が安信のどこに惹かれるかはお楽しみに…)
あの半沢直樹でも良妻を演じた上戸彩、今回も才女の内助。
やる気のない夫をしっかりと包丁侍の道へと導いていく。
この時代に夫に楯つくなんぞあり得ない行動になるだろうが、
料理が素材の本質を引き出す仕事という意味でも、春が夫の
本質(料理の才能)をグイグイ引き出していった功績は大きい。
古狸とののしられ、愛されなくても懸命に尽くす妻の心意気。
私にはこんなことはできないぞ~と思いながら羨望の眼差しv
というわけで脚本などはアレンジだろうが、
後半で振舞われる料理の数々はレシピ通りに再現されたそうだ。
もの凄い数の膳、膳、膳…の品揃えに驚いた。食べられるの?
私がお手伝いしましょうか?(食べる方で)なんて思ったほどだ。
いや~お見事。あんな美食が当時から振舞われていたなんて。
春が夫に対してとる行動は様々あったが、やはり最後は大感動。
相手の気持ちを一番に考えて行動する(身を退く)ことで、春が
どれほど安信を想っているかが伝わり、安信の本意が示された。
二人揃った笑顔を初めて見て、やっと心が安堵した。
今では疎遠になりつつある「嫁」の役割が丁寧に解説された作品。
(しかしあのエンディングテーマは酷い、なんてチャラいんだよ)