「「ワン チャンス」(映画のタイトルではないワン)で突破しようとするところはアイディア賞ものでした。」土竜の唄 潜入捜査官 REIJI 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
「ワン チャンス」(映画のタイトルではないワン)で突破しようとするところはアイディア賞ものでした。
宮藤官九郎脚本はおふざけが過ぎてシュールなのでパスすることが多いのです。迷ったあげく4本残っていたTOHOシネマズの無料ポイントで見てきました。
でした。作品としては三池監督色が強く、ゴツゴツとぶりつかり会う男たちのアクションシーンが見応えたっぷり。手を替え品を替えのギャグとアクションだから退屈せず、意外や意外面白かったです。
でもね、やっぱり 宮藤脚本のバカバカしさは半端じゃあありません(^^ゞ乗れないと置いてきぼりを食うかも。それでも堤監督『劇場版 SPEC』シリーズのシュールさほどではありませんが。
ご存じの方も多いでしょうが、原作の「土竜の唄」は、05年に週刊ヤングサンデーで連載をスタート。現在はビッグコミックスピリッツで連載されており、コミックスは33巻までで累計350万部を発行している高橋のぼるさんの人気マンガが原作。
素行不良を理由に懲戒免職になった警察官・菊川玲二が“モグラ”と呼ばれる潜入捜査官として暴力団内部に入り、幹部を逮捕するため活躍するさまを描いたものです。
まずストーリーが結構手がこんでいます。玲二の潜入捜査の設定も納得の展開。そもそも警察では潜入捜査が禁じられいています。一方厚生省の麻薬取り締まり局はおとり捜査が認められているものの、捜査範囲が麻薬取り締まりに限定されてしまいます。そこで警察と「麻締り」が手を組んで、警察を首になった玲二に極秘裏に潜入捜査のミッションを与えるというものでした。公式な身分ではないので、哀れ玲二は、警察からも指名手配され、敵対する蜂乃巣会からも命を付け狙われるタブルピンチに。
潜入捜査の設定があくまで玲二をおだて上げたあげく、使い捨ての非公式捜査に送り込んだという展開がなるほどと思いました。
また終盤では、ロシアマフィアが持ち込んだ合成麻薬MDMAを蜂乃巣会から横取りした阿湖義組でしたが、数億に上る麻薬の国内流通を何としても食い止めたい玲二の決死の活躍が見物となるシーンも面白かったです。玲二が掴まされたガセの情報で集まった警察と「麻締り」の大捜査網をかいくぐり、阿湖義組はまんまんと「ワン チャンス」(映画のタイトルではないワン)で突破しようとするところはアイディア賞ものでした。
ブルース・リーがきっかけで、映画の世界に魅了され「以来、男のかっこよさを求め続けてきた」という三池監督だけに、ギャグ一辺倒ではない侠気を感じさせるシーンも満載。たとえばも玲二がピンチになったとき覚悟を決めて、「バッチ来~い!」の決め台詞を叫んで自前の正義に突き進んでいくところ。最近草食男子といわれるようになって、男臭さというのが時代遅れになっているのかもしれません。それだけに、今どきの普通よりちょっと男っぽい玲二に魅力を感じてしまう男子は多いのでは?
もっと凄いのは、クレイジーパピヨンこと阿湖義組若頭の日浦。この男は「面白いヤツは生き残るべきだ」との信念に基づいて、義兄弟の契りを結んだ玲二のために命を張るのです。その男気にはホロリと泣けました。日浦は、ケンカは強い上に、ヤクには絶対手を出さないという正義感もあり、そして敵がはなったヒットマンすら恩情をかけてしまうフトコロのデカさに、玲二やヒットマンならずとも惚れ込んでしまうキャラでした。余り格好良すぎで主役を喰ってましたよ。
やはり本作では、玲二を演じる生田斗真の奮闘ぶりを讃えたいと思います。『源氏物語 千年の謎』など華やかなイケメンの役が多かった生田でしたが、本作ではイケメン俳優のイメージを破壊。ここまでやるのと誰もが思ってしまう役者根性をスクリーンに見せつけてくれました。一皮むけた生田には、松山ケンイチのようなどんな役でもこなせる役の振り幅が広い俳優になっていくことでしょう。
劇中で生田の演じるシーンは、原作の玲二のように、目をむいたり、鼻の穴を広げたり、豊かすぎるほど豊かな表情を見せます。度肝を抜くシーンも多く、映画序盤では、走る車のボンネットに裸でくくりつけられ、そのまま洗車機の中に突入するシーンばかり注目されていますが、そればかりではありません。だいたいあのシーンは潜入捜査に入るまえの適性テストのシーンだったので、な~んだと思ってしまいました(^^ゞ
見どころは、玲二のタイマンシーン。特にラストのボス格との対決シーンは、たっぷり時間をとった激しい格闘シーンとなりました。
敵役となる蜂乃巣会幹部の猫沢一誠を演じた岡村隆史もなかなかニャンとアクションで頑張っていましたよ。
三池監督のアクションシーンは、痛みが伝わってくるリアルティを感じます。生田がいうには、「アクションのプロがやったほうがきれいにみえることもあると思う。でも、三池さんに求められていると感じたのは、うまさやきれいさではなく、その時の目のぎらつきとか、暴れている生の姿。本当にやっているからこそ、よくわからない熱がふっと出てくる」と。アクションにもただ殴り合っているだけでなく、殴り合ったいるもの同志のエモーショナルな表現にこだわっているところが、三池監督のアクションにリアルティを感じさせる源泉なのですね。
不死身の日浦に誘われて今度は関西で活躍しそうな終わり方。続編も面白そうです。