「壮大な世界観のSFなのに妙に生々しい」ジュピター 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
壮大な世界観のSFなのに妙に生々しい
ハデな見せ場満載でも心躍らない映画って多い訳だけど
(という出だしからして本作を褒めるレビューではない訳だけど(笑))、
退屈はしなかったものの、僕は本作に殆どエキサイトできなかった。
ものすごーく簡単に言ってしまえばこれは、
しがない人生にウンザリしていた女性が、
実は自分が高貴な身分の人間だったと知るが 、
恋人に出会ったり家族の愛情を思い出したりして
やはり今までの人生がいとおしいと思い直す話。
なのでまずヒロインを応援したくなるかどうかが重要と思うが……
本作のヒロインはなんかあまり応援する気になれない(苦笑)。
いやまあ不法移民という苦しい立場だし家族は母親を除けば
薄情そうなヤツばっかなので不遇な女性だとは思うのだが、
本編を見る限りでは、ヒロインは単調な生活にウンザリ
してるだけの女性に見えてあまり切実な感じを受けない。
主演のミラ・クニスは美人だが、上記の点に加えて
撮り方のせいなのか全然似合わない衣装のせいなのか、
あんまり魅力的に見えなかった。
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アクションについても不満。
アイススケートのような空中移動はユニークだったし、
ヒロインのピンチに必ず駆け付ける白馬の王子様・
ケインを演じたチャニング・テイタムはカッコ良い。
そのスケートのような動作に銃撃や格闘を織り混ぜた
複雑なアクションを巧みにこなしていたと思う。
だが 、それでも迫力や興奮はあまり感じなかった。
CGを駆使したアクションで重要なのは『重み』だと思う。
たとえアニメーションでも、そこに肉体の重み・軋み・痛みや
物体の重量が感じられればリアリティと迫力が出る
(それこそ『マトリックス』とか)。
ビル街での大空中戦や敵本拠地への突入シーンがまるで
無味乾燥に感じられるのはそんな点が理由な気がする。
どのアクションシーンも、全体的にどうにも『軽い』。
壮大な世界観の割にはやってる事がやたらこじんまり
して思える点もガッカリ感を助長していて、
そもそも全銀河で強大な権力を持つ財閥が敵なのに、
セキュリティがやたらザルだし敵も弱い少ない。
いくらエリート兵が相手とはいえ、宮殿の中にアッサリ
侵入を許したり戦闘機で突っ込まれるセキュリティって……
クライマックスもたった2人に強行突破されてるし……
どうやって何万年も王朝を維持してきたんよ君達は。
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まあ逆に言えば
『壮大な世界観の割にはやってる事がこじんまり』
というのが本作のユニークな点でもある訳で、
スペースオペラ風の壮大な世界観にやけに世俗的というか
生々しいシーンが織り込まれている点は面白い。
先に述べた気怠いムードのヒロインもリアルっちゃリアルだし、
ヒロイン達が巨大な銀河帝国と戦う物語かと思いきや、
実際はヒロインが巨大財閥の姉弟どうしの
ドロドロ利権争いに巻き込まれる話。
銀河の女王になるための手続きで、お役所を
タライ回しにされるシーンとかシュールで笑えた。
(テリー・ギリアムも怪しさ満点(笑))
財閥3姉弟の関係もちょっと『リア王』っぽくて、
最大の悪役を演じたエディ・レッドメインも気合の入った
精神不安定演技を見せる……他のキャストとテンションが
違い過ぎてちょっと浮いちゃってた気もするけど。
『遺伝子で人間の人生は決まるか』みたいなテーマも
見え隠れしていて、エンタメ大作というポジションを
崩さない程度の深みも感じる。
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しかしながら、世界観の独特さを抜きにすれば
あまり真新しい部分やエキサイトできる部分は
見当たらないスペースSFだったかなあ。
やや不満の2.5判定で。
<2015.03.28鑑賞>