ニューヨーク、恋人たちの2日間 : 映画評論・批評
2013年7月23日更新
2013年7月27日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー
健康志向でシステマティックな現代社会へのアンチテーゼ
字幕翻訳者は本当に大変だっただろうと、そんな余計な心配をさせるほど、言葉が飛び交う。英語、フランス語、猥談に罵詈雑言。まるでウッディ・アレンの映画のようにちょっとおしゃれで小粋なニューヨークの風景から始まるこの映画は、しかし監督でもあるジュリー・デルピー演じる主人公のフランス人一家がやってくることで様相一変。まさに嵐を呼ぶ一家。
とにかくあきれるほどの傍若無人。バカバカしく騒がしく言いたいことを言いやりたいことをやる。それは一方で、クリーンで健康志向でシステマティックな現代社会へのアンチテーゼでもあるだろう。そのワイルドな過剰さは、セリフ中心のホームドラマであるにもかかわらず、まるでアクション映画のようなスピード感と躍動感を作り出し、ジュリー・デルピーの父親役は本当の父親が扮するなど、ごく親しい数人の人たちと作った小さなプロジェクトの映画でも、十分にハリウッドの大作に対抗できることを教えてくれる。
だからこそあまりに極端な人としてスクリーンに映し出される映画の中の彼らが、まるで自分の周りにいる人たちのように見えてくるのだ。その極端さと普通さの間に私たちの人生が広がっている。あくまでもニューヨークの狭苦しい街並みと小さなアパートの中で展開されるこの映画の中には、それを見る世界中の観客たちの人生を飲み込む巨大な広がりが内包されている。その豊かな大きさを、私たちは見に行くのである。
(樋口泰人)