危険なプロット : インタビュー
フランソワ・オゾン、“目力”で抜てきした美少年エルンストと語る「危険なプロット」
本国フランスで、公開1カ月で120万人超の観客動員を記録したフランソワ・オゾン監督の新作が、邦題「危険なプロット」としていよいよ公開する。フランスが誇る名優ファブリス・ルキーニと新星エルンスト・ウンハウワーが教師と生徒に扮し、スリリングな心理戦を繰り広げるサスペンスタッチのドラマで、オゾンの最高傑作との呼び声も高い。来日したオゾン監督とウンハウワーに話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)
スペインの戯曲を元に、舞台をフランスの高校に移して映画化。かつて作家を目指していた国語教師のジェルマンが、生徒クロードが友人ラファ一家について書いた作文から文才を見いだし、文学的な手ほどきをしていくうちにクロードとラファ一家の関係が思いもよらぬ方向に展開していく。
ルキーニとウンハウワーのキャスティングについてオゾン監督は「これまで多くの文芸作品を舞台で演じているルキーニは、フランスでは文学の教師といったイメージがあり、芝居の経験も豊富、一方エルンストは経験が浅く、本当に教師と生徒のような関係性がありました。二人の実人生が似通っていたことが彼らにとっても役に入りやすかったのでは」と語る。二人がクロードとジェルマンとして高校で個人指導を行うシーンは、物語の進行に沿って撮影する“順撮り”で進めた。「そうすることによって、クロードとジェルマンの関係性が少しずつ深まっていく過程を、生の形、いわばドキュメンタリー的に最後まで撮ることができたことが面白かったですね」と振り返る。
今作でオゾン監督は、イングマール・ベルイマンやウッディ・アレンが用いた演劇的手法を取り入れたり、登場人物が映画館に「マッチポイント」を見に行ったりとアレン監督へのオマージュが感じられる。本人に会ったことは? と問うと「ノン! 大好きな映画監督なので会いたいです。ジェルマンと妻のジャンヌは、アートについてインテリな意見を闘わせるカップルとして描いています。アレンとダイアン・キートンを思わせるように意識しました」と語る。そして「この作品をニューヨークに提案したときに、配給会社の人に1本コピーをアレン監督に送ってくれないかと頼んだんです。見てくれたかどうかわからないし、それから返事はないんですけどね(笑)。最近あまり映画は見ないと聞いていますから」と明かしてくれた。
物語の鍵となるウンハウワーは、細身の肉体に少し影のあるまなざしが印象的な正統派美少年だ。21歳のウンハウワーをオーディションで高校生役に起用した理由をこう明かす。「実年齢よりずっと若く見えたこと。そして、彼の目力です。この映画はクロードがのぞき見趣味的に物語に入っていくので、目力は非常に大事でした。そして彼の声。女性をうっとりさせるような声の持ち主なんです」
シュールレアリストの画家マックス・エルンストが名前の由来だというウンハウワーは「父は抽象フォトグラファーで、人物でも風景でも絵画のように表現するんです。とてもシュールレアリスムに影響されていました。僕自身も初めて出演した長編映画が『マンク 破戒僧』(※アンドレ・ブルトンが『シュルレアリスム宣言』で取り上げたマシュー・G・ルイス『マンク』が原作)だったのでやはりシュールレアリスムには縁があるかもしれません」と語る。
そして、オゾン監督との初タッグを「どんな人かは、もちろん会ってみないとわからないと思っていましたが、作品と同様にちょっとピリッとした辛らつな部分を感じました。想像を裏切られることはありませんでした」と振り返る。「今まで僕の映画なんて見てなかっただろ?」とオゾン監督が問いかけると「8歳くらいのときに『8人の女たち』を見たよ!」と切り返していた。
インタビュー後の写真撮影タイムでポーズを依頼するとオゾン監督は「キスでもしようか?」と上機嫌にリップサービス。顔をしかめるウンハウワーに「(映画の)撮影中は嫌がらなかったじゃないか(笑)」と冗談を飛ばし、息の合った様子の二人は快く写真に応じてくれた。